研究領域 | 細胞競合:細胞社会を支える適者生存システム |
研究課題/領域番号 |
17H05615
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
高橋 智聡 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (50283619)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞競合 / RB / 腫瘍内不均一性 / 上皮間葉転換 / NFYA |
研究実績の概要 |
Trp53+/+;Rbflox/floxマウスおよびTrp53-/-;Rbflox/floxマウスに由来する乳腺上皮初期培養法を確立、Rbのステータスによってがん原性・幹細胞性の変化する実験系を完成した。これらに様々なタイターのcre recombinase-GFPアデノウイルスを感染させることによって、悪性度の異なる2群の細胞が接する3Dインターフェースモデルの解析が可能になった。また、ヒト正常乳腺上皮細胞MCF10A、および、ヒトluminal type乳がん細胞株MCF7においてRBをモザイク状に欠失することによって細胞競合が誘導される2D系も完成した。様々なエビデンスから、乳がん悪性進展過程におけるRB蛋白質発現・活性のモザイシズムの存在が予測されている。乳がんにおいては、basal様(RB low)の細胞とluminal様(RB high)の細胞が混在し、basal様細胞からのparacrine factorの分泌がluminal様の細胞の増殖を刺激するという、腫瘍内不均一性による細胞協調が作用することが提唱されている。我々は、また、乳腺・乳がん細胞におけるRB不活性化が、IL-6, CCL-2, CCL-5等の分泌を変化させることによって、cancer field 内の細胞の自己複製能の維持に貢献することを見出している。本研究では、細胞競合と細胞協調の両方の観点から、乳腺・乳がん細胞におけるRB機能を探索することによって、細胞競合と腫瘍内不均一性が乳がん抑制・進展において果たす役割の本態を解明することを目指した。また、乳がんにおいてbasal様とluminal様の腫瘍内不均一性を産む機構として、上皮間葉転換に着目した。この現象においてスプライシングフォーム転換が起こるNFYAが、basal様とluminal様細胞の細胞協調に関わる可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MCF-7細胞におけるモザイク状のRB不活性化は2D系、3D系において、細胞競合様の現象を引き起こした。現在、E2F阻害剤等の影響を観察中である。正常の乳腺上皮MCF10Aにおいても同様の実験を行っている。 NFYAには二つのスプライシングフォームがあり、完全長をV1、エクソン3が抜けたものをV2と呼んだ。V1はbasal-like typeで、V2は、luminal typeの乳がん細胞株で特異的に発現していた。Luminal様の細胞におけるV1の強制発現はなにも誘導しないが、V2の強制発現は、luminalとbasalの中間的なマーカー発現を示す細胞群を誘導した。さらに、V1とV2の強制発現は、完全にbasal様のマーカーを発現する細胞群を誘導した。これらの事から、V1とV2の二つのスプライシングフォームは協調して、luminal細胞群からのbasal様細胞群の誘導に寄与すると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
MCF-7およびMCF10A細胞におけるRB欠失によって誘導される細胞競合様の現象の性格付けを引き続き行う。とくに、E2F依存性の決定が重要である。 NFYAについては、二つのスプライシングフォームの機能的な差違の分子メカニズムを探索する。NYFAを欠く乳腺細胞においてWNTシグナルを増強させ、その発がんへの影響を観察する。また、luminal細胞群とbasal様細胞群は協調して腫瘍の増大に寄与するという基礎的データを得ている。NFYAの二つのスプライシングフォームがこの現象にどの様に関与するかを探索する。
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