研究実績の概要 |
マウス初期胚においては着床後胚の多能性細胞組織であるエピブラストにおいてMYCの発現量の差による細胞競合が知られていた。本研究では我々独自の知見であるHippoシグナル経路の転写因子TEADの活性(TEAD活性)の差によるエピブラストでの細胞競合に注目し、初期胚における細胞競合機構の多様性について研究を行った。まず、ゲノム編集によりTEAD活性の低いTead1欠損細胞をモザイク状に持つモザイク胚を作成して解析したところ、TEAD活性の差による細胞競合は着床前胚のエピブラスト形成時に起こることを見出した。エピブラスト形成時にはTEADが活性化して多能性因子の発現を誘導していることを見出したが、TEAD活性が異なる細胞でも多能性因子の発現を上げると競合が抑制され、多能性因子の発現量の違いが細胞競合の原因となることが分かった。また、TEAD活性の異なる細胞間ではMYCの発現量にも差があり、多能性因子だけでなくMYCの発現量の違いも細胞競合にかかわっていることが示唆された。一方、着床前胚に野生型とTead1欠損の胚性幹細胞(ES細胞)を導入してこれら2種類のES細胞からなるキメラ胚を作成すると、やはりエピブラスト形成過程でTead1欠損細胞が排除される細胞競合が起こることが分かった。この実験系においては、Tead1欠損細胞ではp53の発現が上昇することで細胞死が起こっていた。これらのことから、エピブラストの細胞競合であっても、発生段階の違いや胚の状態の違いにより、MYC, 多能性因子、p53といった、異なる因子が関与する多様な細胞競合機構が使われていることが明らかになった。
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