研究領域 | 細胞競合:細胞社会を支える適者生存システム |
研究課題/領域番号 |
17H05619
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 仰一 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (60334306)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 数理モデル / 細胞競合 / トポロジー / メカノバイオロジー / 前がん細胞 |
研究実績の概要 |
細胞競合は上皮組織の敗者の細胞死と勝者細胞による代償の繰返しと捉えられる。上皮の接着結合を維持しつつ敗者を勝者に入れ換えるには、細胞死で失われた空間を効率的に埋める機構が必要だ。本研究では、本領域で得られる知見を集約した細胞競合の数理モデルを確立する。細胞やクロンの形状の時空間動態の定量数理解析に基づき、細胞競合を制御する力学的な細胞間相互作用の特性を予測かつ検証する。今年度は主に2つの実績が得られた。 1. 遺伝子変異を生じた細胞集団の形状の多変量解析と数理モデルの連携により、この遺伝子の力学特性を推定する手法を完成させた。査読付き論文を出版した。 2.ショウジョウバエ上皮の細胞競合ライブ観察系を構築し、Yki/YAP過剰発現細胞(勝者)に隣接する野生型細胞(敗者)が細胞死により排除される過程を定量画像解析した。死ぬ細胞に接する野生型細胞は細胞死の前後で面積変化がないのに対して、勝者細胞は細胞死直後から急激に拡大して死細胞の面積をほぼ占有した。この非対称な、すなわち、代償的な面積獲得は死細胞が細長いほど顕著であった。死細胞の形が死細胞の領地をめぐる競合の勝敗を規定することから、非対称な面積獲得は勝者細胞の自律的な成長ではなく、非自律的な制御が予測された。さらに、細胞の力学的変形を表す数理モデルにおいても、実験と同様に死細胞の形に依存した勝者細胞の代償的拡大が生じ、力学的・幾何学的な制御機構が示唆された。死細胞の幾何形状は、死細胞が排除される過程で繰り返し起こる細胞の配置換え(cell intercalation)の方向と相関していた。死細胞が細長い場合にはクロン境界から垂直な細胞の辺にバイアスしてintercalationが起こった。intercalationは細胞の面積変化も伴うため、intercalation方向のバイアスが勝者の代償的拡大の直接因と予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに、細胞やクロンの形状の時空間動態の定量数理解析方法を発展することで、力学的な細胞間相互作用の特性を予測する論文を出版できた。 さらには、細胞死で失われた空間を効率的に埋める機構に関して、数理モデルから予測を立てることができた。ショウジョウバエ上皮の細胞競合ライブ観察系を構築することで、この理論予測をおおよそ検証できつつある。
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今後の研究の推進方策 |
数理モデルで見出した予測が、Yki/Yapに限らず様々な細胞競合系でも成立するかを検証するために、それ以外の遺伝子変異クローンを用いた細胞競合ライブ観察系の構築を進める。
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