昨年までに見出した勝者細胞の選択的な面積拡大を、他の細胞競合系でも検証した。興味深いことに、RasV12活性化細胞が勝者となる細胞競合のライブ観察を行った結果、これら一連の仕組み(死細胞の形に依存したintercalationの方向制御を介した勝者細胞の代償的拡大)が共通して現れた。上皮組織に共通するcell intercalationを介して、勝者細胞の面積拡大に有利な形で細胞間の隣接関係が変化し、細胞死で失われた領地を埋めることが、YkiおよびRas V12細胞競合で示された。腫瘍が空間的な制約を受けつつも急速にその領地を広げる原理の理解につながるであろう。 これらの知見まとめて領域内3つの班との共著論文として、査読付き国際英文誌に投稿し、出版へと至った。掲載雑誌で、この論文はハイライトされ、さらにはMost Downloaded articlesへ4ヶ月に渡り掲載された。プレスリリースの反響も大きい。朝日新聞や日刊工業新聞など国内外の多数のメディアで、細胞の隣接関係の再配置による前がん細胞の拡大などの成果が紹介された。 上述の競合系とは逆に、変異細胞が正常上皮組織から逸脱する場合には、逸脱する頂底軸の方向が組織の運命を大きく左右する。多くの脊椎動物上皮では、頂端側へ逸脱する変異細胞は生体外に排出され、組織の恒常性が維持される。一方で、基底膜側へ逸脱する変異細胞は、基底膜付近に留まり腫瘍化しうる。奥田覚博士との共同研究を通じて、この本質的に3次元の細胞配置換えを理論的に解析した。その結果、細胞密度がある閾値を超えると配置換えが力学的に不安定化することを発見した。さらに、不安定化した後に細胞の逸脱方向を調節する細胞の幾何学特性(隣接する細胞の数)や力学特性を網羅的に同定した。この成果を国際英文誌へ投稿した。
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