研究領域 | 細胞競合:細胞社会を支える適者生存システム |
研究課題/領域番号 |
17H05621
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
松井 貴輝 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (60403333)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ゼブラフィッシュ / 上皮細胞 / 力 |
研究実績の概要 |
前回の公募研究において、研究代表者は、正常発生中のゼブラフィッシュ上皮組織で、細胞競合様の現象を発見した。さらに、その過程を詳細に観察した結果、Fアクチンの動態の差によって勝者細胞と敗者細胞をあらかじめ(排除される30-60分前に)区別できることも発見した。しかも、レーザーによる細胞境界切断法を用いて、細胞間力学的相互作用を評価したところ、勝者細胞-敗者細胞の間の力学特性は、勝者細胞-勝者細胞、または、敗者細胞-敗者細胞の間のものとは異なることを見いだした。今回の公募研究では、過去の研究をさらに発展させ、「組織や細胞に働く物理的な力がどのように細胞競合を制御するか」を明らかにすることを目的とした。 生体でバリアー機能を持つ上皮組織は、細胞同士がタイトジャンクションなどの細胞接着を発達させてシートを構築する。生体の発生過程で、そのシートが広がるとき、上皮細胞は増殖、移動、形状変化を繰り返し、細胞同士が押し合ったり、引っ張り合ったりすることで、組織内には応力が発生し、偏在する。よって、上皮組織の形成は、外力および内部応力の変遷と呼応しながら進展すると考えらえるが、「力」は観ることができないため、生体内の上皮組織において、力学特性がどのような役割を果たしているのかはよく分かっていない。そこで、研究代表者は、 物理学や工学で利用される手法をゼブラフィッシュ胚に適用し、上皮組織の接着力や張力、弾性、粘弾性などの力学特性を測定したところ、組織や細胞に偏在する力が、細胞競合様現象に関与する可能性を新たに見出した。また、藤田領域代表(MDCK)や石谷計画研究(ゼブラフィッシュ)の競合モデルでも力学特性を測定を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
力を定量する際に予期せぬばらつきを検出した。その理由を精査する必要が出てきているため、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、ゼブラフィッシュ胚において、上皮組織や細胞に偏在する力が、細胞競合様現象に関与する可能性が見出された。これをさらに詳しく解析するために、正常細胞と敗者細胞ごとに、細胞の力学特性を計測したり、外力を加えることで細胞や組織にかかる力を人為的に操作することで細胞競合(敗者の排除、敗者の識別、敗者の分布など)がどのように変化するかを調べる。また、藤田領域代表、石谷計画研究員と共同で、RasV12などを発現する変異細胞が排除される細胞競合モデルシステムでも、同様の力学特性が関与する可能性が見出されたので、研究代表者のもつ力の計測・操作を既存の細胞競合現象にも適用し、ゼブラフィッシュで見つけた細胞競合様現象と既知の細胞競合現象との共通点、相違点を明らかにする。
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