公募研究
私たちはこれまでの予備実験の結果から、細胞競合を引き起こすようなRasなどのがん遺伝子に変異がおこった老化細胞は、正常な細胞にくらべてはるかに多くの蛋白質・核酸・分泌膜小胞などのSASP因子を細胞外へ放出していることを明らかにしている。そこで本年度は、老化細胞が分泌するSASP因子のうち細胞競合を制御する分子を同定するためにSASP因子のスクリーニングを行った。まず北海道大学遺伝子病制御研究所の藤田先生の研究室に出張し、MDCK(イヌ腎臓尿細管上皮細胞)を用いて細胞競合の誘導実験を学び、そのシステムを導入した。そして、正常細胞と活性化型RasV12の発現を誘導できる細胞を50:1の濃度でコラーゲンコートしたdish上にまき細胞競合を誘導する際に、老化細胞の培養上清を加えて細胞競合の起こる頻度への影響を観察した。現在、培養上清中の細胞競合を制御する因子を特定するべく解析を続けている。また、ヒトの正常細胞を用いた細胞競合モデルを構築するために、RPE1(ヒト網膜色素上皮由来細胞)でエストロゲン誘導性の活性化型RasV12-IRES-EGFPを恒常的に発現する細胞株を作成し、正常RPE1細胞とRasV12誘導型RPE1細胞を50:1で混合培養したところ、共焦点レーザー顕微鏡の観察により細胞競合現象が確認された。さらに、マウスの生体を用いて細胞競合現象を評価することのできる実験系を確立するために、マウスでがん遺伝子変異を導入するためのシステムを構築し、現在解析を開始したところである。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、老化細胞が分泌する因子が細胞競合を制御する分子機構を明らかにするために、まずはMDCKを用いた細胞競合モデルを導入し、細胞競合現象を観察することが可能となった。また、ヒトの正常繊維芽細胞を用いて細胞競合モデルを構築するための細胞株を作成した。さらに、マウスモデルを用いて個体の臓器で細胞競合を観察するために必要なベクターを作成し、予備実験を行いおおむね順調に進展している。
来年度は、MDCKと我々が樹立したヒト正常細胞の細胞競合モデルを用いて、老化細胞が分泌したSASP因子の中で細胞競合を制御する因子を特定することを目指す。さらに、マウスモデルを用いて細胞競合を観察し、その制御機構を解析することを計画している。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Nature Communications
巻: 8 ページ: 15287~15287
10.1038/ncomms15287
巻: 8 ページ: 15729~15729
10.1038/ncomms15728
FEBS Open Bio.
巻: 7 ページ: 1586~1597
10.1002/2211-5463.12300