研究領域 | ステムセルエイジングから解明する疾患原理 |
研究課題/領域番号 |
17H05631
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
西村 亜衣子 (佐田) 筑波大学, 生命領域学際研究センター, 助教 (80779059)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 表皮幹細胞 / 老化 / 細胞分裂頻度 |
研究実績の概要 |
古典的なモデルにおいて、組織幹細胞は、細胞分裂頻度を低く抑えることで分裂に伴って起こるDNA損傷・テロメア短縮等の影響を最小限にし、老化を防ぐと考えられてきた。しかし申請者は近年、マウス表皮において活発に分裂する幹細胞の存在を見いだした。従って、幹細胞の分裂頻度と老化メカニズムを再考する必要が生じた。本研究は、分裂頻度の異なる2つの独立した幹細胞を持つマウス表皮をモデルとし、幹細胞の老化メカニズムを細胞・分子レベルで明らかにすることを目的として遂行した。 第一に、分裂頻度の異なる幹細胞間で老化表現型に違いが見られるかを野生型2歳齢マウス皮膚の組織学的解析により解析した。その結果、加齢マウスでは分裂頻度の低い表皮幹細胞の局在領域において、アポトーシスの増加、DNA損傷の蓄積、分化マーカーの発現低下が見られた。細胞増殖は分裂頻度の低い表皮幹細胞でも高い表皮幹細胞でも全体的に減少傾向にあった。 第二に、老化によって幹細胞ダイナミクスがどのような影響を受けるかを明らかにするため、細胞系譜解析を遂行した。申請者は、これまでの研究で同定した分裂頻度の低い表皮幹細胞で特異的に発現するDlx1-CreERマウスと、分裂頻度の高い表皮幹細胞で特異的に発現するSlc1a3-CreERマウスを用いることで、表皮幹細胞の数や局在、自己複製・分化能が、加齢に伴いどのように変化するかを検証した。29年度は、タモキシフェンの投与量を調整することで異なるCreER間で同じ数の幹細胞がラベルされる条件を最適化するとともに、初期のタイムポイントにおける解析を完了させた。 第三に、表皮幹細胞の加齢変化の分子的局面を明らかにするため、29年度は、若年マウスを用い分裂頻度の低いと高い表皮幹細胞の単離、RNAシーケンス解析を行った。今後は、加齢マウスからも同様の方法でRNAシーケンスを行い若年マウスの結果と比較する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、野生型加齢マウスや、若年トランスジェニックマウスを用いた基礎データの取得、実験系の確立、実験条件の検討等、研究は全体的に順調に進んでいる。解析に用いる予定のトランスジェニックマウスは、30年度中に2歳齢となるため、残りのin vivo解析についても滞りなく進むことが期待される。一方、候補遺伝子の機能的アッセイを行うためのin vitro系の確立は遅れが見られるので、30年度は重点的に実験を行う。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、加齢マウス皮膚の組織学的解析の結果と、細胞系譜解析、遺伝子プロファイリングで得られた結果を総合的に解釈することで、組織・細胞レベルでの加齢変化を、分子レベルでの加齢変化と結びつける。 第一に、表皮幹細胞に特異的なCreERマウスを用いた細胞系譜解析により、幹細胞の数、局在、自己複製・分化能の加齢変化を、経時的・定量的に解析する。30年度は、2歳齢のマウスにおけるデータを取得し、若年幹細胞と加齢幹細胞、分裂頻度の低い幹細胞と高い幹細胞で、結果を比較することで、分裂速度が異なる表皮幹細胞の加齢変化の共通点・相違点を探る。 第二に、表皮幹細胞の加齢変化の分子的局面に迫るため、30年度は2歳齢のマウスを用いた細胞の単離とRNAシーケンス解析を行う。RNAシーケンスは、ライブラリ作成からデータ解析まで、筑波大学のiLaboratoryに委託する。得られたデータに基づいて、①分裂速度の異なる2種類の表皮幹細胞間で、加齢に伴い共通に発現が変化する遺伝子群(→表皮幹細胞老化のコア原因遺伝子群の同定)、および②活発に分裂する表皮幹細胞でのみ特異的に発現が変化する遺伝子群(→活発に分裂する幹細胞が独自に持つ抗老化・抗がん化メカニズムの解明)を抽出する。同定した遺伝子群について、表皮組織における発現を免疫染色やin situにより確認する。また、表皮幹細胞の老化メカニズムが、表皮以外の幹細胞システムにも普遍的に存在するかに迫るため、他の組織においても、候補遺伝子群の発現解析を遂行する。最後に、表皮幹細胞の老化阻止や若返りに働く機能的な遺伝子群を絞り込むため、表皮幹細胞の初代培養系を用い、候補遺伝子のスクリーニングを行う。
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