近年、加齢に伴う個体の機能低下の一因として、分化細胞の供給源である幹細胞の機能低下(幹細胞の老化)が提唱されている。しかし幹細胞の老化に関する知見の多くは、特定の組織や分子に着目した個別研究であり、幹細胞老化を統合的に理解するための基盤が不足している。 古典的なモデルにおいて、組織幹細胞は、細胞分裂頻度を低く抑えることで、分裂に伴って起こるDNA損傷・テロメア短縮等の影響を最小限にし、がん化や老化を防ぐと考えられてきた。しかし我々は近年、マウス表皮において、活発に分裂する幹細胞の存在を見出した。従って、幹細胞の分裂頻度と老化メカニズムを再考する必要が生じた。本研究は、分裂頻度の異なる2つの独立した幹細胞を持つマウス表皮をモデルとし、幹細胞の老化メカニズムを、細胞・分子レベルで明らかにすることを目的として遂行した。 我々は、野生型老年マウスや、老化促進モデルマウスSAMP1、SAMP8を用いた表現型解析により、分裂頻度の高い表皮幹細胞では加齢に伴い顕著に増殖能が低下すること、一方で分裂頻度の低い表皮幹細胞では分化マーカーの発現低下や異所的発現が見られることを見出した。このメカニズムとして、分裂頻度の高い表皮幹細胞で発現する細胞外マトリクスFibulin-7が、幹細胞の増殖抑制や領域化の制御を介して抗老化に働く可能性を示した。さらに、若年・老年マウスの皮膚から単離した分裂頻度の異なる幹細胞のRNAシークエンス解析を行い、幹細胞老化関連因子を網羅的にプロファイルした基盤データを得た。 以上の研究成果により、幹細胞を標的とした効果的、かつ根本的な老化予防・制御法の確立、老化診断マーカーの開発へとつながることが期待される。
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