急速な社会の高齢化は、糖尿病を始めとする生活習慣病のさらなる増加をもたらしている。慢性炎症は生活習慣病に共通する基盤病態であり、加齢は慢性炎症を促進する(inflammaging)ことが知られているが、その分子機序は不明である。申請者は、肥満とともに老化も内臓脂肪組織で炎症シグナルを活性化することを見いだした。また、高脂肪食負荷によって新規の炎症細胞(APDP細胞)が誘導されることを見いだした。新規炎症細胞は炎症性サイトカインを分泌し、脂肪組織炎症を誘導する。H27~28年度公募研究「細胞老化による脂肪細胞新生ニッチの変容と脂肪組織炎症慢性化機序の解明」において、老化との関連を解析し、老化脂肪組織ではAPDP細胞が増加することが炎症活性化に寄与していること、また加齢に伴いAPDP細胞への分化が活性化することを見いだした。本研究では、分化における広範なエピゲノム変換を制御する機序の老化による変調が脂肪組織炎症を誘導するモデルを検証し、その機序を解明することを目的とする。老化や代謝シグナルによるエピゲノム変換機構の変調について、脂肪前駆細胞やAPDP細胞のエピゲノムとトランスクリプトームをRNA-seqならびにATAC-seqの結果をもとに解析した。バイオインフォマティクス的な解析により、老化に伴う脂肪前駆細胞ならびにAPDP細胞の変化を司る転写因子群を同定した。これらの転写因子の機能を培養細胞を用いて実験的に検討し、APDP細胞の分化を制御する可能性が高い転写因子を同定した。
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