胸腺組織は、T細胞分化・選択のストロマとして機能する胸腺上皮細胞(TEC)が組織の骨格をなす上皮性組織であり、TECの加齢変化が胸腺退縮の主要因と言われる。最近の研究で、特にT細胞の自己寛容(自己を攻撃しないこと)を保証する髄質TEC(mTEC)の数が早期に減少することが明らかとなり、このことが加齢に伴い自己免疫性・炎症性素因が増大する一因となる可能性が示唆されている。申請者はこれまでに、mTEC幹細胞(mTECSC)を同定するとともに、その活性が生後直後からT細胞産生に依存して急速に低下することを明らかにしてきた。本研究ではこの成果を土台として、mTECSCの早期活性低下の分子機構の解明と幹細胞活性の制御方法を確立することを目的としている。これまでにまず、胸腺上皮幹細胞の活性測定法の改良を行い、活性の低い成獣マウスでも測定可能な感度のよい方法を開発した。この方法を用いて、放射線照射などの処置により胸腺細胞数が減少したマウスの幹細胞の活性を測定したところ、胸腺細胞数が最も低下する時期に幹細胞の活性が顕著に増加することが明らかになった。さらに、この時期の胸腺上皮細胞に発現する遺伝子を網羅的に解析することで、T細胞数減少に応答してTEC幹細胞の活性を増強させうる候補因子を同定しつつある。また、胸腺退縮によるT細胞産生の低下が、末梢T細胞の炎症性サイトカインの産生増強をもたらすことを明らかにした。以上の結果を2本の原著論文として発表することができた。
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