公募研究
生涯にわたり血液細胞を供給する造血幹細胞は、骨髄のニッチ(niche)と呼ばれる限局した微小環境に接着し維持されている。私たちは、骨髄で造血幹細胞の維持に必須のニッチを構成する中心的な細胞(CAR細胞)と、その機能や発生の分子基盤を世界に先駆けて明らかにし、CAR細胞が老化に伴い骨髄を占有する脂肪細胞を産生する脂肪・骨芽細胞前駆細胞であることを明らかにした。そこで、CAR細胞の老齢による機能の変化を検討した。若年マウスと老齢マウスのCAR細胞を分離して、遺伝子発現量を比較したところ、CAR細胞特異的に発現することを見出していた転写因子Ebf3の発現が老齢マウスで低下していた。Ebf3発現細胞の性状を解析するため、薬剤投与でEbf3発現細胞をラベルできるマウスを作製したところ、Ebf3発現細胞はCAR細胞と同一であること、CAR細胞は1年以上自己複製能を持ち骨芽細胞と脂肪細胞を供給する幹細胞であることが明らかとなり、老齢マウスで増加する脂肪細胞は、CAR細胞由来であることが確認された。次にCAR細胞で特異的にEbf3を欠損するLepR-Cre;Ebf3 flox/floxマウスを作製し、野生型マウスと比較したところ、26週令で欠損マウスの骨髄は、組織学的に著差なく、造血幹細胞・前駆細胞の細胞数が約半分に低下していた。しかし、老齢マウス(90週令)の骨髄では、骨棘が著増することで骨髄腔が著しく減少し(重症大理石病様)、残存するCAR細胞では、骨芽細胞で高発現する転写因子OsterixやOsteocalcin、アルカリフォスファターゼの発現が増加していた。更に、骨髄腔あたりの造血幹細胞・前駆細胞の細胞数は著減していた。すなわち、老齢マウスのCAR細胞で、Ebf3の欠損により骨芽細胞への分化が進み、造血幹細胞・前駆細胞支持能が低下した。以上より、老齢個体における、CAR細胞の骨芽細胞への分化の抑制による未分化性維持にEbf3が必須であることが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
骨髄のCAR細胞が間葉系幹細胞であることが、はじめて証明され、老齢マウスで増加する脂肪細胞は、CAR細胞由来であることが確認された。また、老齢期で、骨髄の造血を支持する間葉系幹細胞(CAR細胞)の、骨芽細胞への分化の抑制による未分化性維持に必須の転写因子(Ebf3)が世界ではじめて同定された。これらは、老化によりCAR細胞の未分化性維持機構が低下する可能性を分子レベルで示す等、間葉系幹細胞とその老化の理解を大きく進める重要な成果である。
若年マウスと老齢マウスのCAR細胞におけるFoxc1とEbf3の遺伝子発現について、発現細胞の細胞数と細胞一個あたりの発現量を解析する。また、引き続き、薬剤投与によりCAR細胞特異的にFoxc1遺伝子の欠損または強制発現を誘導できるマウスの作製を進める他、骨髄のCAR細胞由来の脂肪細胞の役割を明らかにするために、CAR細胞特異的にPPARγまたはC/EBPα遺伝子を欠損するマウスを作製する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
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