公募研究
近年、造血幹細胞領域を中心に、加齢によるリボソームの変化が注目されつつある。リボソームの機能は過剰に過ぎても抑制されてもHSCの可塑性維持に不都合が生じることがわかってきた。リボソームを構成する因子は約80種類のリボソームタンパク質と4種類のリボソームRNA(rRNA)であるが、この生合成には多くの因子が必要で、とりわけpre-rRNAのプロセシングは、数百に及ぶトランス因子の作用で段階的に秩序だって行われる。また、リボソームDNA(rDNA)領域は、合計数百のrDNA遺伝子により構成され、数多くの服制開始点を有することが知られる。最近、この領域のDNA複製障害の蓄積が老化造血細胞の特徴のひとつであることが示され、リボソーム生合成のコントロールを起点とした細胞制御システムが加齢現象に深く関わることが注目されつつある。こうしたことを背景とし、本研究では造血細胞の加齢や、加齢とともに発症リスクの増大する造血器腫瘍をリボソーム機能の変化と対比して検証することに主眼を置いた解析を実施してきた。H29年度には白血病細胞株をモデルとし、リボソームプロファイリング解析の基盤構築に力を注いできた。この解析手法は、リボソームの中に取り込まれているmRNAのみを分離精製し次世代シーケンサーでデータ取得するもので、まさに翻訳を受けつつある遺伝子配列を知ることができる。これにより、細胞の加齢や腫瘍化に伴う、遺伝子ごとの翻訳効率の変化やスプライスフォームの選択性に踏み込んだ解析を実施することができるが、データ取得が煩雑でテクニックを要することが障壁となる。初年度には細胞株をモデルとしたデータ取得に成功し大きな弾みがついたので、H30年度には、遺伝子改変を施した細胞や初代培養細胞を用いた同様の解析を実施することを計画している。
2: おおむね順調に進展している
初年度計画の最大の目標であった、リボソームプロファイリング手法の構築に成功したので、研究計画はほぼ順調に進展しているといえる。また、並行して進めてきた遺伝子改変マウス(リボソーム生合成に異常をきたすことが想定されるDDX41遺伝子変異ノックインマウス)の作出にも成功した。こうしたモデルや実験手法を造血幹細胞の老化現象といかに直接的に結びつける解析が実施できるかという点が、次年度以降の課題である。
研究実績の概要に記載の通り、H29年度にはリボソームプロファイリング解析手法の構築に注力し、細胞株モデルを用いてデータ取得を実施することができた。このリボソームプロファイリング解析では、遺伝子のうち翻訳されつつある部分のみを選択的に次世代シーケンサーで読めるので、mRNAシーケンスによる遺伝子発現データと対比させることで、網羅的に遺伝子ごとの翻訳効率を調べることができる。また、翻訳フレームの変化なども得ることが可能である。今後は、造血細胞の老化に関わる遺伝子のうち、リボソーム生合成に関わる遺伝子に改変を加えた細胞を用いてリボソームプロファイリング解析を実施し、加齢に伴っていかに翻訳の「品質」が変容していくか明らかにすることを目指す。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 1件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 2件)
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