本研究では、様々な炎症性因子が造血幹細胞に対してストレス負荷を与えることで造血幹細胞の機能恒常性を変容・破綻し、悪性転換から細胞癌化へと導くという仮説をたて、慢性炎症ストレス下における造血幹細胞の機能変化と幹細胞癌化への関与を細胞および組織レベルで解析し、それらの分子メカニズムについて明らかにすることを目的としている。 本年度はDSS(デキストラン硫酸ナトリウム)の飲水により誘発される腸管炎症モデルマウスを用いて、急性炎症並びに慢性炎症における造血応答について解析を行ったところ、急性炎症モデルの実験においてはDSSの短期投与により骨髄において造血幹細胞ならびに多能性前駆細胞(MPP2)が有意に増加していた。さらに、腸間膜リンパ節においても多能性前駆細胞ならびに単核球や好中球が顕著に増加していた。他の抹消リンパ節を調べたところ、これらの変化がないことから、腸管炎症により、造血幹・前駆細胞が炎症局所へと遊走している可能性が示唆された。また、遺伝学的や薬理学的アプローチにより、それらの変化はToll様受容体(TLR)シグナリングおよび特定の腸内細菌に依存していることが示された。中和抗体を用いて全身性に骨髄球系細胞を除去すると、腸間膜リンパ節でのMPP2の増加や腸管組織損傷が増悪することから、腸管炎症に伴う造血制御は末梢組織の組織損傷や修復に寄与していることと推察された。
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