研究領域 | 新生鎖の生物学 |
研究課題/領域番号 |
17H05657
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
齋尾 智英 北海道大学, 理学研究院, 助教 (80740802)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | NMR / シャペロン / 速度論 / 二量体 / トリガーファクター |
研究実績の概要 |
分子シャペロンは新生鎖の折りたたみや輸送という生命の根幹となるイベントにおいて重要な役割を担うにもかかわらず,その詳細な作用機序はほとんど明らかになっていない.中でもシャペロンの活性発現機構や基質選択性については特に知見が乏しい.本研究では,シャペロン-基質の立体構造解析を拡張し,速度解析などを相補的に組み合わせることによってシャペロンの動的な機能を詳細かつ総合的に明らかにすることを目指す.今年度は,大腸菌細胞質で機能するTrigger Factor (TF) シャペロンを対象とし,立体構造と速度論の観点から,TFの作用機序解明に取り組んだ.TFは溶液中で二量体を形成し,リボソームまたは基質タンパク質との結合によって単量体化することがこれまでの研究によって明らかにされていたが,TFの機能における二量体の意義については明らかにされていなかった.本研究ではまず,TF二量体の活性,ならびに基質タンパク質との相互作用について検証した.その結果,二量体を形成する野生型TFは,単量体化変異体と比較して,基質タンパク質との親和性が低いにも関わらず,坑凝集活性などのシャペロンとしての活性は単量体よりも高活性であることが明らかになった.また,基質との結合速度についてストップトフローによって検証したところ,TFは二量体において結合速度が速くなっていることが明らかになった.本研究ではさらに解析を進め,TF二量体の立体構造を溶液NMRによって決定し,TFがどのようにして二量体形成によって活性を高めているのか,そのメカニズムについて明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,(A) TF-基質複合体,TF二量体についての立体構造解析,(B) 基質タンパク質の折りたたみと基質-シャペロン相互作用についての速度解析,(C) シャペロン機能のリアルタイム観測,の3項目に照準を定めている.このように,本研究では速度論の観点を取り入れたこれまでにないアプローチによって,シャペロンの基質選択性のメカニズム,またシャペロンの活性の発現メカニズムを総合的に明らかにすることを目指す. 2017年度においては,(A) について大きな進展が得られ,計画していた立体構造解析の大部分を完了することができた.さらに,(C) については,基質タンパク質の折りたたみをリアルタイムで観察するための条件検討を進め, 良好な実験条件が定まってきた.さらに (B) についても着手し,一部のシャペロンについては基質タンパク質との相互作用についての速度論解析を進めながら,実験環境の整備を行った.以上のように,3項目すべてにおいて着実な進展があり,今後の研究の見通しも立っていることから,研究は概ね順調に進行していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本研究における3つの照準のうち,(B) 基質タンパク質の折りたたみと基質-シャペロン相互作用についての速度解析,(C) シャペロン機能のリアルタイム観測,について重点的に進める.(B) についてはこれまでに,一部のシャペロンと基質タンパク質についての実験を行い,実験環境の整備を行った.今後は,活性の異なる複数のシャペロンと,折りたたみ速度の異なる複数の基質タンパク質を用いた網羅的な速度論解析を展開し,シャペロンの活性と基質選択性について普遍的なメカニズムを明らかにすることを目指す.実験に使用するシャペロンと基質の大部分についてはすでにコンストラクト作成,タンパク質発現・精製プロトコルの確立が完了している.(C) については,引き続き実験条件の検討を進める.ここでは,基質の折りたたみを遅くした実験条件において,基質の折りたたみをリアルタイムで観測し,折りたたみと連動したシャペロンとの相互作用について観察する.これによって,シャペロンと基質タンパク質との過渡的な相互作用を高分解能で観測し,シャペロンと基質タンパク質との相互作用がどのようにして基質タンパク質の折りたたみを助けているのか,そのメカニズムを明らかにする.
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