公募研究
リボソームで合成された新生ペプチドは,大サブユニットを貫く出口トンネルを通って出てくるが,出口トンネルを1/3ほど進んだところで,リボソームの大サブユニットを形成するタンパク質のうちRPuL4とRPuL22が出口トンネルに突き出た構造になっており,狭窄部位と呼ばれる。狭窄部位はリボソーム出口トンネルと新生ペプチドとの相互作用部位として注目されている。RPuL4は,シロイヌナズナにおいて2つのオルソログ遺伝子によってコードされる。片方のオルソログ遺伝子のノックアウト株に,FLAGタグを付けた野生型および変異型のRPuL4遺伝子を導入したトランスジェニック・シロイヌナズナを用いた解析を進めた。変異型のRPuL4遺伝子では,狭窄部位を構成するRPuL4のβ-ループのステムの両側部分にそれぞれ1アミノ酸欠失を導入している。これまでの研究に引き続き,シロイヌナズナCGS1遺伝子のS-アデノシルメチオニンに応答した翻訳停止における出口トンネル狭窄部位の関与をシロイヌナズナ試験管内翻訳系を用いて解析した。これに加えて,CGS1以外の翻訳停止,ならびにリボソームの停滞に関する解析を行った。これにより,CGS1以外の遺伝子における新生ペプチドが関与したリボソームの停滞においても,出口トンネル狭窄部位が重要な役割を担っていることが示唆された。CGS1遺伝子の翻訳停止におけるシス配列であるMTO1領域と翻訳停止が起こるSer-94の間の数アミノ酸残基の領域の機能の解析を行った。この領域について,様々なアミノ残基の置換ならびに残機数を変えた変異を導入して,S-アデノシルメチオニンに応答した翻訳停止の効率を解析した。その結果,この領域がMTO1領域と翻訳停止位置の距離を決めるスペーサーとして機能する事を示唆する結果を得た。
2: おおむね順調に進展している
これまで翻訳停止もしくはリボソームの停滞において,出口トンネル狭窄部位の重要性が生化学的に示された例はない。これは,そのための実験系が存在しなかったためである。翻訳停止もしくはリボソームの停滞がおきた時に,新生ペプチドと出口トンネル狭窄部位が相互作用をしていると考えられることは,構造生物学的な解析によって示唆されていたが,いわば現象論の解釈であり,因果関係を考察するためには生化学的解析が必要である。本研究により,変異型リボソームを持つトランスジェニック・シロイヌナズナ株に由来するシロイヌナズナ試験管内翻訳系をもちいることで,生化学的な検証の道を開くことができた。
これまでに行ってきたCGS1遺伝子のS-アデノシルメチオニンに応答した翻訳停止の解析における生化学的解析の方法論を,出口トンネル狭窄部位に変異を導入したトランスジェニック・シロイヌナズナ株を利用した研究に摘要することで,翻訳停止における出口トンネル狭窄部位の関与を明確にする。また,これまでに作成したもの以外の変異をもつトランスジェニック・シロイヌナズナ株に広げた解析を推進する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Nucleic Acids Research
巻: 45 ページ: 8844-8858
10.1093/nar/gkx528