研究領域 | 新生鎖の生物学 |
研究課題/領域番号 |
17H05660
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
船津 高志 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (00190124)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 1分子計測(SMD) / ナノバイオ / 光ピンセット / 蛋白質 / リボソーム |
研究実績の概要 |
翻訳の制御は、生命活動の根幹に関わる重要なプロセスである。最近、新たな遺伝子発現制御機構として、「翻訳アレスト」と呼ばれる現象に関心が寄せられている。本研究では、SecMおよびTnaCにおける翻訳アレストの維持・解除機構を明らかにすることを目的とし、以下の研究を行った。 1.SecM翻訳アレスト解除の1分子力学測定 SecMはアレスト配列という特殊なアミノ酸配列を有しており、これがリボソームトンネルと相互作用して翻訳が停止する。リボソームの外側に出たアミノ酸は翻訳停止に影響しないと思われていたが、57から98番目までのアミノ酸の領域が翻訳アレストを安定化することを明らかにした。さらにアラニンスキャニングによりHis84、Arg87、Arg91が重要であることを明らかにした。 大腸菌内ではトランスロコンがSecMの新生鎖を引っ張ることにより翻訳アレストを解除していると考えられている。実際に、翻訳アレストが新生鎖を引っ張ることにより解除されるかを明らかにするために、光ピンセットを用いて様々な大きさの外力をmRNA・リボソーム・新生鎖複合体に加えることの出来る実験系を構築した。 2.TnaC翻訳アレスト分子機構の1分子イメージングによる解明 溶液内に遊離のトリプトファンが存在しないとTnaCは翻訳される。この際、遊離因子としてRF1が使われる。一方、トリプトファンがリボソームに結合すると翻訳終結が阻害され、翻訳アレストが起こる。遊離因子の効果を調べたところ、RF1ではなくRF2が翻訳アレストの解除に重要であるという意外な結果を得た。TnaCの遺伝子配列を精査したり、翻訳アレストが解除されて合成されたタンパク質を調べた結果、フレームシフトによって翻訳が終了することを発見した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.SecM翻訳アレスト解除の1分子力学測定 リボソーム外領域で相互作用するSecMの部位をアラニンスキャニングにより絞り込むことができた。αヘリックスの正電荷をもった領域が、負電荷をもつリボソームと結合していることが示唆された。SecMとリボソーム両者の結合界面を明らかにするため、リボソーム外領域で相互作用するSecMの部位にアンバーコドンを導入したコンストラクトを作製した。また、新生鎖のN末端にHaroTag、mRNAと結合するオリゴDNAにdgタグをつけてビーズに結合させ、光ピンセットを用いて様々な大きさの外力をmRNA・リボソーム・新生鎖複合体に加えることの出来る実験系を構築した。これにより1分子計測の準備が整った。 2.TnaC翻訳アレスト分子機構の1分子イメージングによる解明 様々な濃度のトリプトファンのもとでTnaCを翻訳し、その合成量を定量した。その結果、TnaC翻訳アレストがトリプトファンの結合により起こることを確認することができた。RF1ではなくRF2が翻訳アレストの解除に重要であるという意外な結果を得ており、これは翻訳アレストがフレームシフトにより解除されることを示唆している。TnaC翻訳アレストがフレームシフトにより解除されることを証明するため、ストップコドンの後ろにフレームシフトするとGFPを発現する配列を加えたコンストラクトを用意した。また、ナノ開口を用いてTnaC翻訳を1分子イメージングするための光学顕微鏡のセットアップを行った。
|
今後の研究の推進方策 |
1.SecM翻訳アレスト解除の1分子力学測定 リボソーム外領域で相互作用するSecMの部位にアンバーコドンを導入し、この配列を認識するtRNAに光架橋剤BPAを結合させる。PURE systemでタンパク合成を行い、翻訳アレストが起こった状態で紫外線を照射するとSecMとリボソームが光架橋されるので、リボソームのどの部位が架橋されたかを質量分析計で明らかにする。これにより、SecMとリボソーム両者の結合界面を明らかにすることが出来る。また、1分子力学測定では、mRNA・リボソーム・新生鎖複合体を実際に引っ張ってSecMの翻訳アレストを解除するのに必要な力を計測する。 2.TnaC翻訳アレスト分子機構の1分子イメージングによる解明 TnaC翻訳アレストがフレームシフトにより解除されることを証明するため、ストップコドンの後ろにフレームシフトするとGFPを発現する配列を加えておき、トリプトファン濃度を変えたときのGFPの合成量を定量する。さらに、TnaC翻訳アレストが解除されて出来た産物を質量分析計にかけてアミノ酸配列を決定し、フレームシフトが起こったことを証明する。また、ナノ開口を用いて、TnaC翻訳を1分子イメージングする。具体的には、2種類のコドンを認識するtRNAを異なる波長の蛍光色素で標識し、これがリボソームに結合してアミノ酸を転移するまでを可視化する。これにより、TnaCの翻訳がアレストされる様子と、フレームシフトにより解除される様子を可視化し、TnaC翻訳アレスト分子機構を明らかにする。
|