公募研究
我々は、ビブリオ属細菌が持つ翻訳停止ポリペプチドVemPを以前に同定している。このタンパク質は、Sec膜透過装置によって細胞質膜を通過する分泌タンパク質であり、細菌のタンパク質分泌能が低下すると、自身のタンパク質合成が、C末端近傍で安定に停止(翻訳アレスト)する。この翻訳停止には、リボソーム内壁と合成途上鎖の間の特異的相互作用が関与するが、そのメカニズムは明らかでなく、翻訳停止に必要なVemPの配列についての詳細な解析もなされていなかった。そこで、本研究において以下の解析を行った。1)翻訳停止を簡便にアッセイできるレポーター系を構築し、そのレポーター系を用いて、VemPのC末端領域20アミノ酸残基を対象にした網羅的変異解析を行った。その結果、翻訳停止に極めて重要なアミノ酸残基、かなり重要な残基、それほど貢献していないアミノ酸残基を同定した。この結果を、2017年に報告されたVemP-ribosome complexの構造に当てはめ、報告された構造の妥当性を評価するとともに、翻訳停止状態が安定化する前に幾つかのアミノ酸残基が積極的にアレストの安定化に関与している可能性を指摘した。2)VemPの翻訳停止から分泌に至るkineticsを測定できる融合タンパク質を構築し、これを用いて、VemPの動態解析を行った。その結果、VemPはシグナル配列が切断を受けた状態においても、まだ翻訳停止能を維持しており、その後ゆっくりアレストが解除されることが明らかになった。この特徴は、VemPが膜透過の後期課程で働くSecDFの機能をモニターするという生理的機能と上手く合致しているように思われる。以上の成果を論文として取りまとめ報告した。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の目標として、以下の4つの項目を挙げている。1)VemP arrest motifの同定、2)VemP-ribosome複合体の構造解析、3)VemPのin vitro膜透過系の構築、4)VemPの翻訳停止をSecD2の発現上昇に転換する機構の解析。このうち、1)については、研究は完了し論文として取りまとめた。2)については、我々も他大学との共同研究として解析を進めていたが、ドイツのグループにより先に成果を報告されたこともあり中止することとした。3)は現在進行中であるが、鍵となる因子の同定に成功し、まだ十分に高い活性ではないものの有意な膜透過を検出することに成功しており、今後の順調な進展が期待できる。4)については、アッセイ系の確立に成功し、現在論文用のデータを取りまとめるべく実験を進めている。以上のことから、一部研究計画の修正は行ったものの概ね順調に進んでいると考えている。
VemPのin vitro膜透過系の構築:先に述べたように、VemPをin vitroで膜透過させるに必要な因子の同定に成功し、まだ効率は低いものの有意な膜透過が観察できる状態まできている。今後は、膜透過効率を上昇させる条件をさらに検討すると共に、、翻訳停止の解除と膜透過との関係を明らかにしていく予定である。VemPの翻訳停止をSecD2の発現上昇に転換する機構の解析:vemP-secD2間に存在する特徴的なmRNAの2次構造の破壊が、下流のSecD2の発現に必要であるとの作業仮説に基づいて研究を進めている。この2次構造が実際に存在していることを、RNA SHAPE実験により検証すると共に、VemPの翻訳停止状態では、この二次構造が破壊されていることを実験的に示す。VemPの翻訳停止に関わる因子の探索:VemPの翻訳停止に関わる因子を遺伝学的な手法を用いて分離する。具体的には、変異によって翻訳アレスト解除が過不全となった変異型VemPのアレストが正常に解除され、膜透過が進行する株を分離することで、アレスト解除に関与する因子を同定する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)
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