多くの新規合成タンパク質は翻訳後すぐに分解されることと、リボソームの多くが小胞体に結合していることを併せ考えると、翻訳時挿入に関わるリボソーム上での新生鎖分解機構を明らかにすることは、真核細胞のタンパク質品質管理の観点から極めて重要と考えられる。細胞は、ストレス時に小胞体ホメオスタシスの破綻を避けるために、本来小胞体に挿入されるべきシグナル配列を持つタンパク質の翻訳を細胞質内で完了し直接分解する(小胞体の予防的品質管理システム、ER stress-induced pre-emptive quality control:ERpQC)。しかし、その分子メカニズムは不明であった。我々は、小胞体膜分子Derlinがストレス時に分泌タンパク質などを「小胞体を経由した分泌」から「細胞質での分解」へと運命を変化させること、さらにはAAA ATPaseであるp97ならびにコシャペロン分子Bag6がそれらの分解を担うことを明らかにしてきた。本研究期間において、ERpQCの更なる分子メカニズムを解明とその生理的意義について検証することを目指した。その結果明らかになった分子メカニズムは、ERpQCによる分解システムが、①分泌タンパク質などが小胞体ストレス時には、DerlinとSRP複合体およびトランスロコンの結合によって小胞体への挿入が阻害されシグナル配列を有したまま細胞質で翻訳されること(Rerouting step)と、②Reroutingされた基質が、膜型E3リガーゼHRD1、シャペロンBag6、p97 AAA ATPaseを介して分解される(Degradation step)2つのステップからなることを明らかにした。さらに、ERpQC基質がどのようにしてReroutingされるのか、また分解に至る詳細な分子メカニズムを結合分子解析やリボソームプロファイルなどにより解析した。
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