公募研究
(1)大腸菌ゲノム断片ライブラリーからの翻訳アレスト配列の大規模探索および機能解析これまでに大腸菌由来再構成型無細胞翻訳系PUREシステムを用いたmRNAディスプレイ法により、大腸菌ゲノム断片ライブラリーから試験管内選択し、次世代シークエンサーで解読された翻訳アレスト候補配列を含む遺伝子断片を大腸菌ゲノムにマッピングした。本年度はこれらのデータを様々な角度から解析し、大腸菌の1700以上のORFの部分配列が濃縮されていることを明らかにした。本手法を、莫大なサイズのライブラリーから翻訳アレスト配列を選択できる手法ということで、STALL-seq(Selection of Translational Arrest sequence from Large Library - deep sequencing)と命名した。従来のリボソームプロファイリングなどの大規模データと比較して翻訳アレストの程度が大きく異なる遺伝子断片を数十個抽出し、得られた新規の翻訳アレスト候補遺伝子についてペプチジルtRNAの形成を確認した。(2)真核生物の翻訳アレスト配列の試験管内選択大腸菌のような原核生物だけではなく、真核生物の翻訳アレスト配列の探索にも本手法が適用できることを立証するために、まず、無細胞翻訳系として小麦胚芽抽出液やウサギ網状赤血球由来抽出液を用いて、シロイヌナズナ由来のCGS1やヒト由来のXBP1uなどに含まれる既知の翻訳アレスト配列をモデルとして試験管内選択の条件検討を行なった。その結果、植物由来のCGS1でmRNA-タンパク質連結分子の形成を確認することができた。また、ピューロマイシン耐性のアレスト配列では、アレスト活性が強いほど、逆にピューロマイシンが連結しにくくなる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
(1)大腸菌ゲノム断片ライブラリーからの翻訳アレスト配列の大規模探索および機能解析STALL-seq法により得られた大規模なデータ解析により、従来法において大腸菌内では翻訳アレストが報告されていなかった遺伝子で、試験管内での翻訳アレストが新たに確認できた遺伝子を複数見出すことができた。(2)真核生物の翻訳アレスト配列の試験管内選択ランダム配列ライブラリーの試験管内選択までには至らなかったが、小麦胚芽抽出液由来の無細胞翻訳系を用いることで、mRNA-タンパク質連結分子の形成を確認することができたことから、すぐにライブラリーの試験管内選択を始められる準備は整った。また、予期せぬ結果として、ピューロマイシン感受性と翻訳アレスト活性の強さとの関連について新たな知見を得ることができた。以上述べたように、当該年度の計画目標をおおむね達成することができたといえる。
(1)大腸菌ゲノム断片ライブラリーからの翻訳アレスト配列の大規模探索および機能解析前年度に試験管内でアレストを示した遺伝子が、従来のリボソームプロファイリングやiNP法を用いた細胞内ではアレストを示さなかった原因の1つとして、試験管内には存在しないアレスト解除因子が大腸菌内に存在している可能性が考えられる。そこで、得られた各遺伝子の機能と関連する制御因子(抗生物質や酵素基質)を推定し、その候補化合物の存在/非存在下で無細胞翻訳反応を行いアレスト活性を測定することで、新規のアレスト配列の生物学的意義を解明する。もう1つの原因として、ピューロマイシン感受性か耐性かの違いで差がついている可能性を詳細に検証するために、iNP法でピューロマイシン感受性が定量化されている遺伝子の情報を抽出し、STALL-seq法による濃縮効率との関係性を調べる。(2)真核生物の翻訳アレスト配列の試験管内選択小麦胚芽抽出液由来の無細胞翻訳系を用いることで、mRNA-タンパク質連結分子の形成を確認することができたので、この系を用いて、ランダム配列ライブラリーおよびシロイヌナズナゲノム断片ライブラリーの試験管内選択をおこない、植物と原核生物のリボソームに対して翻訳アレストをおこす配列の特徴の違いを比較解析する。一方、動物の翻訳アレスト配列については、ウサギ網状赤血球由来抽出液だけではなくヒトHela細胞由来抽出液や昆虫細胞由来抽出液を用いて、動物由来既知翻訳アレスト配列のmRNA-タンパク質連結分子の形成が確認できるかどうか検討を続ける。抽出液中のアレスト解除因子の影響を排除するために、酵母やヒト由来の再構成型無細胞翻訳系PUREシステムの利用も視野に入れる。
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Nucleic Acids Res.
巻: 45 ページ: 11449-11458
10.1093/nar/gkx776