研究領域 | 新生鎖の生物学 |
研究課題/領域番号 |
17H05675
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
潮田 亮 京都産業大学, 総合生命科学部, 研究助教 (30553367)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 小胞体 / ERdj5 / タンパク質品質管理 / レドックス / カルシウム |
研究実績の概要 |
我々は、小胞体で初めてジスルフィド還元酵素ERdj5を発見し、小胞体関連分解における基質のジスルフィド結合を還元し、再び一本のポリペプチド鎖にすることによって小胞体からサイトゾルへ効率よく逆行輸送させていることを示した(R. Ushioda et al. Science 2008、R. Ushioda et al. Mol. Biol. Cell. 2013)。また我々はERdj5全長の結晶構造を解き(M.Hagiwara et al. Mol. Cell 2011)、構造解析を基盤としたより詳細な分子メカニズムの解明に貢献してきた。さらに研究期間内で、ERdj5の新しい機能として、小胞体内腔のカルシウム調節にも関わることを明らかにし(R. Ushioda et al. PNAS 2016)、また最近では、小胞体膜上に存在するカルシウムチャネルの制御も担うという発見もした(未発表)。本研究では、ERdj5の還元メカニズムに関して新生鎖に着目し、小胞体に挿入された新生鎖の還元力が小胞体のレドックス環境に与える影響、およびERdj5の還元力の供給に着目して研究を行ってきた。ジスルフィド結合依存的クロスリンカーDVSFを用いることで、これまで同定された結合タンパク質とは異なるタンパク質を同定した(K.Araki et al. Anal. Biochem 2017)。ERdj5との結合タンパク質を同定し、酸化酵素Ero1が新生鎖からERdj5の電子の移行を仲介している可能性が強く示唆された。また、結合サイトの同定にも成功し、両タンパク質のドッキングシュミレーションでは構造的にも電子伝達の可能性を示唆するデータを得ることが出来た。さらに、ERdj5、Ero1、PDIをそれぞれ精製し、試験管内などで酸素電極を用いた実験を行い、ERdj5がEro1から電子を奪う、決定的証拠をつかんだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初から予定していた酸化酵素Ero1によるERdj5への電子伝達機構の解明に関しては、リコンビナントEro1、ERdj5を発現・精製に成功した。また、試験管内でERdj5の還元活性を測定し、Ero1によるERdj5の還元活性の促進を観察することが出来た。予想していたとおり、Ero1によるERdj5の還元活性促進が試験管内でも再現することが出来た。計画に従い、無細胞発現系において新生鎖を発現させ、ERdj5のレドックス状態を観察したが、予期せぬことに無細胞発現系のバッファーにERdj5を著しく還元する因子が混入していることがわかり、ペンディングとなった。その代替として、細胞内の内在性ERdj5のレドックス状態が検出可能となり、新生鎖合成を阻害するシクロヘキシミド処理によってERdj5のレドックス状態が酸化方向にシフトすることが明らかとなり、直接的な新生鎖の影響を細胞内で観察することが出来た。また構造学的見地からは、計画班の東北大学多元物質科学研究所の稲葉謙次教授らとコンピューターシュミレーションでドッキングモデルを作成し、結合様式を予測した。結果、既存の構造と我々と稲葉教授との共同研究で見出した新しいERdj5の構造(K.Maegawa et al. Structure 2017)が、それぞれ別の活性中心へと電子を受け渡すドッキングモデルを得ることが出来た。これらのことをまとめ、早急な論文投稿を目指したい。無細胞発現系以外は当初の予定に沿って順調に研究が遂行されているといえる。無細胞系の実験も、培養細胞内の実験に置き換えることが出来ると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
予定通り、以下の2点について研究を遂行し、新生鎖による小胞体レドックスへの影響をさらに詳細に解析する。 a.ERdj5相互作用因子ERp18の機能解析 ERdj5との結合因子をMS解析により探索した際、新たな結合因子としてERp18が同定されている。ERp18はこれまでに還元酵素として同定されたが、その他の機能に関しては未知である。これまでERp18の機能解析を進めたところ、ERp18が亜鉛イオンと結合することで、新生鎖の酸化的フォールディングから生じる過酸化水素の除去活性を有するという非常に興味深い知見を得た。当初、ERp18がERdj5の還元ソースとしての役割を果たすのではないかと考えていたが、細胞内で行った実験では、ERp18によってERdj5は酸化されることがわかった。これは期待していた電子の移行とは逆であったが、これまでに活性中心でERp18ほどERdj5を酸化する酸化還元酵素は発見されてはいない。ERp18もEro1と同様、ERdj5の還元メカニズムの重要な因子として解析を進める予定である。 b.新生鎖による小胞体レドックスへの影響 今回、Ero1からの電子伝達により、ERdj5のレドックス状態が制御されていることがわかった。新生鎖からの電子伝達が小胞体内腔のレドックス環境にどの程度、影響を与えるかを観察する。哺乳類細胞を用いて、新生鎖による小胞体レドックス環境への影響を観察する。シクロヘキシミドなどのタンパク質合成阻害試薬を使い、新生鎖の合成を調節する。レドックスの観察にはroGFPを用いて行う。roGFPは、GFP構造中に存在する2つのシステインによって環境中のレドックス状態を感知し、構造変化を引き起こす。構造変化に伴う蛍光シグナルの変化を追跡することでレドックス状態をモニタリングすることが可能である。
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