研究領域 | 新生鎖の生物学 |
研究課題/領域番号 |
17H05678
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
喜井 勲 国立研究開発法人理化学研究所, 科学技術ハブ推進本部, ユニットリーダー (80401561)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | DYRK1A / 自己リン酸化 / フォールディング / ATP / 中間体 / ユビキチン / プロテアソーム / 品質管理 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、リン酸化酵素の新生鎖における品質管理機構の解明である。リン酸化酵素の新生鎖は、翻訳と同時にフォールディングされ、活性ドメインを形成すると報告されている。この活性ドメインは、同一分子内の新生鎖を基質としてリン酸化する。この分子内自己リン酸化は、リン酸化酵素の構造を最適化し、成熟を促進することで、新生鎖の品質管理機構として機能している。代表者(喜井)は、リン酸化酵素DYRK1Aの新生鎖が触媒する自己リン酸化反応を特異的に阻害する新規化合物の同定に成功した。この研究の過程で、DYRK1Aの自己リン酸化は新生鎖の状態で一過的に起こることを見出した。本研究では、これらの現象に関与する分子メカニズムを明らかにすることによって、DYRK1A新生鎖における品質管理機構の解明を進める。平成29年度は、以下の3つの研究を実施した。 1:リン酸化酵素DYRK1A新生鎖における活性ドメイン形成の研究 フォールディングの完了したDYRK1A活性ドメインとその新生鎖ーリボソームーmRNAの複合体を単離するため、活性ドメインに強く結合するDYRK1A阻害剤の構造類縁体の化合物を設計した。さらに、単離精製用ビーズへの固定化について検討を進めた。 2:DYRK1A新生鎖のフォールディング異常認識分解機構の研究 自己リン酸化依存的なフォールディングの過程で相互作用の変動するタンパク質分子を網羅的に探索した。これら同定されたタンパク質分子については、機能別分類とそれぞれの相互作用のインタラクトーム解析を実施した。さらに、siRNAを用いた実験により、DYRK1A新生鎖フォールディング・品質管理機構への関与を実証した。 3:リン酸化酵素DYRK1A新生鎖のユビキチン化機構の解明 発光タンパク質を融合したユビキチンの構築に成功し、DYRK1Aのユビキチン化を発酵により定量する技術を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、以下の3つの研究項目で結果が得られており、「おおむね順調に進展している」と判断した。 1:リン酸化酵素DYRK1A新生鎖における活性ドメイン形成の研究 DYRK1A活性ドメインを新生鎖・リボソームごと単離精製するため、代表者(喜井)らがこれまでに設計・合成した阻害剤の中から、活性ドメインへの強い結合力、ビーズへの固定化のためのリンカーの配置、安定性などを指標に、新しい化合物の設計を進め、合成へと進める準備を行った。 2:DYRK1A新生鎖のフォールディング異常認識分解機構の研究 野生型DYRK1Aと点変異導入により酵素活性を失った活性欠失型DYRK1Aを培養細胞からTAP法により単離・精製し、それぞれに結合するタンパク質分子をnanoLC-MS/MSにより網羅的に同定、さらに質量分析データを解析することで、結合量の変動するタンパク質分子を定量的に同定した。これらの中には、既知のシャペロン群に加え、ユビキチン依存的なプロテアソーム分解を制御する多数の分子が含まれていた。さらに、これらの分子間の相互作用をインタラクトーム解析により同定、このインタラクトームの中のコアとなる分子については、siRNAによるノックダウンにより、DYRK1Aの自己リン酸化依存的なフォールディング過程や品質管理機構に関与するかを実証する実験を行い、幾つかの鍵分子の同定に成功した。 3:リン酸化酵素DYRK1A新生鎖のユビキチン化機構の解明 発光タンパク質を融合したユビキチンの構築に成功し、DYRK1Aのユビキチン化を定量する技術を確立した。この技術は、これまで定性的であったユビキチン化を厳密に統計的に定量することを可能とし、項目2で同定された分子が、DYRK1Aの品質管理機構に対して、どの程度定量的に関与するのかを解析する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の3つの研究項目を進め、リン酸化酵素DYRK1A新生鎖の自己リン酸化依存的なフォールディングに関わる品質管理機構の解明を進める。 1:リン酸化酵素DYRK1A新生鎖における活性ドメイン形成の研究 DYRK1A阻害剤などの化合物を固定化したビーズを作製し、これを用いて、DYRK1A活性ドメイン新生鎖複合体を単離する技術を開発する。単離した活性ドメイン-リボソーム複合体に含まれるmRNAの領域をRNA-seqにより配列決定することで、DYRK1A mRNA上をどこまでリボソームが翻訳すると、酵素活性ドメインが形成されるかを明らかにし、cotranslational foldingの概念をリン酸化酵素に適用し、新生鎖における品質管理機構の重要性を実証する。 2:DYRK1A新生鎖のフォールディング異常認識分解機構の研究 野生型DYRK1Aと酵素活性を失った変異型DYRK1Aに結合する分子の網羅的探索及び結合変動の定量解析の結果を取りまとめ、自己リン酸化依存的なフォールディングに関与するタンパク質分子群のネットワークを明らかにする。これらのネットワーク構成分子の中から、DYRK1Aの安定性を制御する分子を選別し、siRNAなどを用いた実験から、新規創薬ターゲットとなり得るタンパク質分子の同定、及びその実証実験を実施する。本成果は、創薬スクリーニングへと展開する。 3:リン酸化酵素DYRK1A新生鎖のユビキチン化機構の解明 上記項目2で得られた分子群のうち、ユビキチンープロテアソームに関与する分子(ユビキチンリガーぜや脱ユビキチン化酵素など)を標的として、これらの分子のDYRK1A品質管理機構への関与を定量的に解析する。具体的には、これらの分子のsiRNAノックダウンにおいて、DYRK1Aのユビキチン化がどのように変動するかを、発光ユビキチンを用いることで、定量的に評価する。
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