リン酸化酵素の新生鎖は、翻訳と同時にフォールディングされ、活性ドメインを形成すると報告されています。活性ドメインは、同一分子内の新生鎖を基質としてリン酸化します。この分子内自己リン酸化は、リン酸化酵素の構造を最適化し、成熟を促進することで、新生鎖の品質管理機構として機能しています。 私たちは、リン酸化酵素DYRK1Aに着目し、研究を進めています。この研究の過程で、私たちは、DYRK1Aのフォールディング途中に一過的に存在する「中間体構造」が触媒する分子内自己リン酸化を特異的に阻害する低分子化合物を発見し、その化合物をFINDYと名付けました。興味深いことに、FINDYは完成型DYRK1Aによる基質リン酸化は阻害しませんでした。これらの結果から、フォールディング中間体は、完成型とは異なる特異な構造を有していると考えられます。さらにFINDYによって自己リン酸化を阻害されたDYRK1Aフォールディング中間体は、速やかに分解されることを見出しました。この結果は、フォールディング中間体の品質管理機構が存在することを示唆しています。 本研究では、この品質管理機構の解明を目的として、DYRK1Aの分子内自己リン酸化依存的に結合・解離するタンパク質群を網羅的に同定しました。その結果、自己リン酸化依存的に、14-3-3等のリン酸化部位に結合するタンパク質群や脱ユビキチン化酵素が結合することや、HSP90等の分子シャペロンやE3ユビキチンリガーゼが乖離することを見出しました。さらに、FINDYのDYRK1A活性ドメインへの作用を詳細に解析したところ、FINDYは活性ドメインに直接作用し、その熱力学的な不安定化を誘導することを見出しました。これらの結果は、フォールディング途中にFINDYが作用しうる一過的中間状態が存在すること、さらにその品質管理機構には自己リン酸化依存的な様々なタンパク質の結合・解離が関与することを示しています。
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