本研究では、合成されたばかりの若いmRNAとある程度時間がたった古いmRNAの間でどのような翻訳制御の差があるかを網羅的かつ定量的に解析することを目的としている。この目的のために、1) RNAを一定時間uridineの誘導体でpulseラベルし、経時的にchaseすることで、ラベルされたRNAの挙動を時間経過とともに追うこと、 2) またラベルされたRNAを特異的回収し、ribosome profiling法を応用することで、その翻訳動態を解析することを計画してきた。この目的を達成するために、微小サンプルに対する新規ribosome profiling法の確立が急務となった。実際にcarrier oligoをサンプル中に加え、サンプルロスや反応効率の減少を防ぎつつ、最終的に酵素的にcarrier oligoを除去する方法を確立し、必要サンプル量を1/1000程度まで抑えることに成功している。 また、新学術領域内での共同研究を推進してきた。特に理研伊藤らのグループとともに抗がん作用をもつ翻訳阻害剤Rocaglamide AによるmRNA選択性の構造基盤を明らかにした。Rocaglamide AはRNA結合タンパク質である翻訳開始因子eIF4Aを標的としつつ、AやGが連続したポリプリン配列に対する特異性を与えることが生化学的に分かっていた。Rocaglamide A、eIF4A、ポリプリンRNAの共結晶の構造から Rocaglamide Aが、eIF4AとポリプリンRNAが形成する境界面に結合する非常にユニークな阻害剤であることがわかった。また、Rocaglamide Aが直接塩基を認識し、配列特異性を生み出していることも明らかになった。
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