公募研究
H29年度は (i) 細胞内小胞輸送異常とαシヌクレイン(αS)蓄積・神経変性の関係、および (ii) αS細胞間伝播の分子メカニズム解析の2課題に注力した。第一の課題では、DNAJC13/RME-8遺伝子変異による家族性パーキンソン病(PARK21)の分子病態解明にむけた研究を実施した。COS7細胞にPD関連N855S変異型DNAJC13を安定発現することで、初期エンドソーム上でのアクチン網形成が顕著に阻害され、初期-後期エンドソーム/リサイクルエンドソームの積荷タンパク輸送が障害されるとともにエンドソーム内にαSの異常蓄積を生じることを明らかにした。また、ヒトN855S変異型DNAJC13発現ショウジョウバエにヒトαS遺伝子を共発現することで、ハエ脳内αS蓄積を伴うドパミン神経変性を生じ、複眼変性増強および運動機能低下をもたらすことを確認した(Yoshida S, Hasegawa T, Hum Mol Genet 2018;2018年2月に東北大学・大阪大学ホームページ上で共同プレスリリース済み)。もう一つの課題として、αS細胞間伝播のメカニズム解析を進めた。このなかで細胞外αSがドパミントランスポータ-(DAT)の結合分子で、中脳黒質や青斑核のカテコラミン産生ニューロンに高発現するラフト関連膜タンパクの一つflotillin-1/reggie-2と会合し、DATのエンドサイトーシスを促進するとともに、同プロセス便乗して細胞内へ侵入することを発見した(投稿中)。また、安定した線維化αS脳内接種・伝播を可能とする穿刺針に超音波発生装置を組み合わせた対流強化薬剤送達カニューレ(CED)を用いた改良型マウスモデルを作出し、先行実験で線維化αS細胞内取込阻害効果が確認されたSSRI(セルトラリン)の治療効果検証を進めている。
2: おおむね順調に進展している
H29年度はαS伝播を制御する細胞内小胞輸送機構に関して、DNAJC13/RME-8遺伝子変異による家族性パーキンソン病(PARK21)の分子病態解明にむけた研究を実施し、その結果を関連国際誌に発表した(Yoshida S, Hasegawa T, Hum Mol Genet 2018)。先行研究により、培養神経細胞における線維化αS・タウの内在化にはエンドサイトーシスが関与することが示されている。我々はdynamin活性の抑制効果を有する抗うつ薬SSRIの一種sertralineがαS取込みを低減させることを報告した。その後の追加検討により、(i) sertralineによるαS取込み阻害効果は細胞毒性が高いと推定される線維化αSに対して選択的であること、および (ii)他のSSRI(paroxetine、fluvoxamine)にもsertralineと同様の効果があることを見出している。一方、過去に報告された単純注入による線維化αS脳内接種モデルでは個体間での伝播率のばらつきが大きく、伝播抑制薬による病理進展抑制効果の正確な判定が困難であった。その原因の一つとして、注入後に線維化タンパクが脳実質から脳表へと逆流していることが示唆された。この問題を改善する方法を繰り返し検討し、穿刺針に超音波発生装置を組み合わせた対流強化薬剤送達カニューレ(CED)の使用により、脳表への逆流を防ぎ安定して線維化タンパクの脳内接種を可能とすることに成功した。一側線条体への10μgの線維化マウスαS接種により、1ヶ月後には脳梁を経由して対側大脳皮質、線条体にもSer129リン酸化αS病理の出現を確認している。
H29年度に作出した、線維化αS脳内接種老齢マウス(35週齢)を用い、sertralineを含めた複数種類の抗うつ薬を接種前1Wからゾンデを用い連日投与し、対流強化薬剤送達カニューレにて一側線条体もしくは黒質へ線維化マウスαSを接種する。0W、2W、4W、8W目にRotarod test、beam walk test、Y-maze testによる運動・行動評価を実施するとともに4Wおよび8WでSer129リン酸化αS抗体、オリゴマーαS特異抗体(Syn-O2)、Thioflavin Sの各染色法により脳病理像の観察を行い、伝播抑制効果について検証を行う。これらに併せて、BF-227を含めたPETトレーサーを用い、動物用半導体PET装置による脳内αS病理像可視化についても検討を試みる。上記と併行して、αS伝播/内在化プロセスにおけるflotillin-1/DATの機能的役割について、iPS由来ドパミン神経細胞や全反射顕微鏡(TIRFM)を利用し、より詳細な機能解析を進める。さらに、全脳膜タンパクライブラリー(MPL)と質量分析装置(MALDI-TOF/MS)を併用した創薬手法により、神経・グリア細胞表面に発現する線維化αS受容体の網羅的解析を実施する。本研究の一部はすでに実施済みであり、線維化αSに親和性を認める膜タンパクを複数見出している。今後免疫沈降反応や、特異抗体を用いた伝播抑制効果などの検証実験を予定している。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2018/01/press20180117-01.html
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2018/20180117_1