研究領域 | 脳タンパク質老化と認知症制御 |
研究課題/領域番号 |
17H05687
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋本 唯史 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (30334337)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | FUS / 筋萎縮性側索硬化症 / 前頭側頭葉変性症 / 神経変性疾患 |
研究実績の概要 |
本研究では、家族性ALS病因タンパク質FUSの神経細胞間伝播、及び神経細胞障害性発揮の分子機序を明らかにすることを目標としている。 1FUSの神経細胞間伝播機序の解明。まず培養細胞系でFUSの細胞間伝播を測定する実験系としてsplit-luciferase tagを付加したFUSを発現させたHEK293細胞を樹立し、FUSの細胞間伝播を測定するFUS伝播センサー細胞の樹立に成功した。そして、本実験系を用い、FUSがbrefeldin Aによって阻害されないunconventionalな経路で細胞外に放出されることを見出した。また、アデノ随伴ウイルスを用いてbicitronicにdTomatoとFUSを発現する実験系を樹立し、FUSの神経細胞間伝播を可視化する実験系の樹立に成功し、通常核内に存在するFUSが伝播によって細胞質に局在することを確かめた。これは何らかの異常性を獲得したFUSが神経細胞間を伝播した可能性を示唆するものである。 2FUSの神経細胞障害性発揮機序の解明。FUSと過剰発現することにより進行性の複眼変性を呈するFUS tg ショウジョウバエを用い、FUSの細胞外局在が毒性を増悪すること、さらにFUSの毒性はアミノ末端側のlow-complexity領域を介した自己重合に依存することを見出し、論文発表した (Matsumoto, Human Mo;ecular Genetics, in press, 2018)。さらに、casein kinase I delta/ipsilonを発現させることにより、FUS tg ショウジョウバエの毒性が軽減することを見出し、現在low-complexity領域内でのリン酸化部位を同定しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、家族性ALS病因タンパク質FUSの神経細胞間伝播、及び神経細胞障害性発揮の分子機序を明らかにすることを目標としている。 まず、神経細胞間伝播機序の解明のため、(I)細胞間伝播現象実証、(II)細胞間伝播分子機序の解明、(III)伝播能獲得機序の解明、の3段階の研究を計画している。これまでにFUSの神経細胞間伝播を測定するFUS 伝播センサー細胞、及びFUSの神経細胞間を可視化する実験系の樹立に成功し、FUSが神経細胞間を伝播しうることを世界で初めて明らかにしたことから、(I)のステップは完了し、(II)の段階へ研究は進んでいる。また伝播したFUSの細胞質局在現象も見出しており、(III)の解明の端緒となると考えられる。 また神経細胞障害性発揮の解明のため、(I)神経毒性分子内責任領域の同定、(II)神経毒性発揮分子機序の解明、(III)細胞間伝播が神経変性に及ぼす影響の解明、の3段階の研究を計画している。これまでにFUSの細胞質局在、及びlow-complexity領域を介した分子間重合が毒性に必須であることを見出したことから、(I)のステップは完了し、(II)の段階へ研究は進んでいる。また、毒性緩徐する手法としてcasein kinase I delta/ipsilonの効果を見出した。これはFUS-opathy患者の新たな治療法開発の切っ掛けとなることが期待される。 これらの理由から本研究はおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
FUSの神経細胞間伝播メカニズム解明のため、まず初年度の結果を踏まえ、FUS伝播センサー細胞を用い、薬理学的・遺伝学的手法により、FUSの放出機構、そして内在化機構を明らかにする。得られた結果はアデノ随伴ウイルスを用いたFUS神経細胞間伝播可視化実験系で検証する。また、微小流体デバイス実験系を用い、FUSの伝播が経シナプス経路であるか否か検討する。 さらに、ショウジョウバエを用いモザイク解析を利用した手法でFUSの細胞間伝播現象を実証する実験系を開発する。 FUSの神経細胞障害性発揮メカニズム解明のため、細胞質で自己重合したFUSがどのような細胞内コンパートメントに局在するのか、明らかにする。またアデノ随伴ウイルスを用いたFUS発現マウスを用い、FUSが神経変性を引き起こすか明らかにする。さらに、伝播現象に関わる分子のKOマウス、あるいはshRNA実験により、FUSの伝播と障害性の関係を明らかにする。
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