研究領域 | 脳タンパク質老化と認知症制御 |
研究課題/領域番号 |
17H05695
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
水田 恒太郎 京都大学, 医学研究科, 助教 (60632891)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / カルシウムイメージング / 場所細胞 / 海馬 / 記憶・学習 / バーチャルリアリティ |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)の初期症状として、空間の認知障害が挙げられる。しかし、ADの症状が神経回路レベルでどのように進行するかについてはわかっていない。本研究では、空間認識や記憶障害に関係する海馬の神経回路に注目し、海馬CA1領域に緑色蛍光カルシウムセンサータンパク質G-CaMP7を発現する次世代型ADモデルマウス(AppNL-G-F/NL-G-F)を用いて、同一個体の同一神経細胞集団の活動を、数ヶ月に亘って1細胞の解像度で二光子カルシウムイメージングにより観察し、AD病態の神経回路レベルでの進行を観察した。 ADモデルマウスでは、海馬上昇層でG-CaMP7の蛍光シグナルとして観察されるアミロイド斑様凝集体が、3ヶ月齢から発生し、加齢と共に数、大きさともに増大した。また、免疫染色により、この凝集体はアミロイド斑付近に存在していたことから、アミロイド斑の位置の指標となった。神経活動においては、4ヵ月齢でアミロイド斑様凝集体付近でのみ発火頻度の高い神経細胞が増え、7ヶ月齢以降になると、発火頻度の高い細胞が領域全体で観察された。また、仮想現実環境下の探索行動で観察される場所細胞は、4ヶ月齢で発火場所領域の安定性に異常が見られはじめ、7ヶ月齢になると安定性はさらに悪くなり、場所細胞の数も減少した。 従って、ADの海馬CA1領域の神経回路において、場所細胞を含む様々な神経細胞の活動パタンは異なった破綻様式を持つことが明らかになり、この知見がADの有効な薬物評価へ応用されることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、海馬CA1領域にG-CaMP7を発現するADモデルマウスとコントロールマウスの同個体で、4, 7, 10, 13ヶ月齢から海馬の400-700個からなる同一の神経細胞群の記録に成功している。また、7ヶ月齢以降になると、発火頻度の高い細胞が領域全体で観察された。また、仮想現実環境下の探索行動で観察される場所細胞は、4ヶ月齢で発火場所領域の安定性に異常が見られはじめ、7ヶ月齢になると安定性はさらに悪くなり、場所細胞の数も減少したことを証明した。さらに、アルツハイマー病モデルマウス由来の凝集体は免疫染色によりアミロイド斑の近くに存在していたことも証明した。このことから研究はおおむね進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
アルツハイマー病モデルマウスの大脳皮質の一部を除去する事で海馬を露出し光学窓を設ける。回復後、マウスを空気圧で浮かせた発泡スチロールのボールに載せて頭位を固定する。その歩行をモニタし仮想直線路と同期させる。前年の結果を踏まえ残り2つの以下の実験を行っていく。 S.A.1知的行動によるアルツハイマー病の予防とアミロイド形成、微小回路破綻過程への影響 仮想現実空間上で報酬場所学習課題を行わせる。神経回路破綻過程のどの段階で記憶障害を生じていくかを観察する。また、この仮想空間学習課題を用いた知的行動をマウスに行わせることで破綻がどのように回復・遅延されるか調べていく。 S.A.2薬物による神経回路保護の観察 上記S.A.1で観察された、病態の進行状況に応じたタイミングで薬物の投与を行い、異常活動および神経回路の破綻がどのように回復・遅延されるか観察する。
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