研究領域 | 脳タンパク質老化と認知症制御 |
研究課題/領域番号 |
17H05697
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 洋光 京都大学, 理学研究科, 助教 (30705447)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / アミロイドベータ / 全反射顕微鏡 / 海馬 / グルタミン酸受容体 |
研究実績の概要 |
本研究はアルツハイマー病の早期に起こる記憶・学習障害の病態解明を目指して、可溶性Aβ重合体 (Aβオリゴマー) による海馬長期増強現象 (LTP: long-term potentiation) への毒性作用を明らかにする。平成29年度では、全反射顕微鏡を用いたライブイメージング法により、LTP発現時にAβオリゴマーがAMPA型グルタミン酸受容体 (AMPA受容体) のエキソサイトーシスに及ぼす異常作用を明らかにした。また、U字型ガラス管を追加導入した独自の実験系を構築し、AMPA受容体のエンドサイトーシスの可視化に成功した (Fujii et al, Genes to Cells, 2017)。具体的には、初代培養したラット海馬神経細胞に、主に3~10 mer を含むAβオリゴマーを投与した。その後LTP誘導刺激を加えて、蛍光標識したAMPA受容体サブユニットGluA1、GluA2またはAβオリゴマーを高シグナルノイズ比、高時空間分解能で観察した。LTP誘導刺激後、GluA1の輝度は増加しなかった一方、GluA2の輝度はやや増加した。また、GluA1のエキソサイトーシス頻度が抑制され、GluA2やGluA1/2ヘテロマーのエキソサイトーシス頻度は抑制されないことを明らかにした。以上の結果より、AβオリゴマーはLTP発現に際して、GluA1ホモマー特異的にAMPA受容体の数の増加を阻害することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ラットまたはマウス海馬神経細胞を実験モデルとし、全反射顕微鏡法またはパッチクランプ法を用いて以下の項目を研究する。①超解像技術を用いた受容体の局在分布解析、②ゲノム編集法を用いた遺伝子改変マウスの作製、③シナプス可塑性の障害時における受容体の局在変化解析、④シナプスにおけるAβオリゴマー毒性の統合的把握である。 平成29年度では、主に研究項目①と②を実施した。①では、超解像顕微鏡法の1つである光活性化局在顕微鏡法を既存の全反射顕微鏡に組み合わせて、シナプス後膜における蛍光標識したAMPA型グルタミン酸受容体を1分子レベルで観察した。また②では、CRISPR/Cas9システムを利用して、AMPA受容体の遺伝子内に蛍光タンパク質をノックインして内在性AMPA受容体を可視化した。これにより、強制発現系に依らない生理的な発現レベルでの受容体の観察を可能にした。以上の結果より、計画が概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度では、主に研究項目③と④を実施する。③では、内在性グルタミン酸受容体を超解像度で観察する。具体的には、Aβオリゴマーの投与下において、シナプス可塑性の誘導刺激を海馬神経細胞に加え、どのような受容体の異常な局在変化が起こるのかを、1分子レベルで明らかにする。④では、これらの異常な変化がシナプス伝達やシナプス可塑性をどのように障害するのかを、パッチクランプ法等の電気生理学的手法により明らかにする。そして、ライブイメージングの結果と統合してアルツハイマー病の早期病態モデルを新たに提唱する。これらにより、シナプス病変機構、脳老化の制御機構、及び記憶・学習が成立する基礎過程の解明への貢献を目指す。
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