公募研究
ポリグルタミン病や認知症などの神経変性疾患では、分子シャペロンーユビキチンープロテアソーム系(UPS)やオートファジーの機能を凌駕して変異蛋白質が凝集して蓄積し、この過程に神経毒性が存在し神経変性が惹起される。有効な治療法は、病因蛋白質の異常な凝集を抑止したり、蓄積する量を減らすことで達成される。ケンペロール(kaempferol:KF)は、茶、フルーツ、野菜、及び豆類等をはじめとする多くの植物に含まれる天然フラボノールである。本研究では、神経培養細胞(Neuro2a)に正常及び変異したアンドロゲン受容体(AR)、Ataxin-1、Atrophin-1、huntingtinを発現させ、KFを投与して、オートファジー活性化の機構の観察とそれぞれの病因蛋白質の発現量を検討した。KFは、用量依存的にLC3-II、Beclin1の発現を増加させ、p62の発現量を減少させた。KFと3-メチルアデニンとの同時投与では、KF によるLC3-IIの発現量増加作用は抑制された。さらに、Atg5又はp62のノックダウンは、KFによるLC3-IIの発現量の増加を抑制した。KFは、変異したAR、Ataxin-1、huntingtinの凝集体形成や発現量を減少させ、パルスチェイス法で分解を更新させた。これらのKFによる変異蛋白質の分解促進作用は、3-メチルアデニンによって抑制された。本研究によって、KFが、強力なオートファジー活性化作用を有すること、及び、オートファジー経路の比較的上流に作用すること、を明らかにした。また、神経変性疾患細胞モデルにおいて、KFが神経変性疾患の原因蛋白質の発現を強力に抑制し得ることを示した。オートファジーの活性化を介して、変異蛋白質の凝集、蓄積、及び核内封入体形成を抑制し得るKFは、認知症やポリグルタミン病など神経変性疾患の神経機能障害を改善させる可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究によって、ケンペロールが、強力なオートファジー活性化作用を有すること、及び、オートファジー経路の比較的上流に作用すること、を明らかにした。また、神経変性疾患細胞モデルにおいて、KFが神経変性疾患の原因蛋白質の発現を強力に抑制し得ることを示した。これは、細胞内のオートファジー分解系の活性化を介して、原因蛋白質の分解が促進された結果と考えられる。神経変性疾患では、神経細胞内に変異蛋白質の凝集、蓄積、及び核内封入体形成の過程に病原性があると考えられている。従って、オートファジーの活性化を介して、変異蛋白質の凝集、蓄積、及び核内封入体形成を抑制し得るKFは、認知症やポリグルタミン病など神経変性疾患の神経機能障害を改善させる可能性が考えられる。
神経変性疾患では、病因となる蛋白質が神経細胞内で異常な凝集体を形成して蓄積する過程で細胞毒性を起こして神経細胞死に至る。オートファジーは、細胞内でこれらの異常な蛋白質を分解するシステムとして重要な役割を果たしており、この機能を効率よく利用することで副作用の少ない有効な神経変性疾患の治療を開発することができると考えられる。今後の研究では、オートファジーの制御メカニズム及びオートファゴソーム形成の分子機構の解明を目指して、オートファゴソームとリソソームの融合におけるdynactin1の役割を検討する。本研究では、さらに神経変性疾患モデルにおける異常蛋白質の分解効果の分子機構を細胞、分子、超微形態レベルから明らかにして、この経路に作用する薬剤によるオートファジーの活性化機構を解明するとともに、その機序に基づいた神経変性疾患の治療法を開発する。私達は、これまでにdynactin1がオートファゴソームの輸送に係わり、またTRAPPC9蛋白質を介してオートファゴソームとリソソームの融合に関与することを見いだしている。これらの結果に基づいて、細胞と生体レベルでの分子生物学方法及び免疫電顕法などの手法を用いて、dynactin1の関連分子を同定し、そのメカニズムを明らかにする。本研究を実施するに当たって、動物実験施設を含め、マウスの表現型解析、western blot、免疫組織化学、レーザー顕微鏡、電子顕微鏡など病理学的解析手法を確立しており、細胞分子生物学実験の研究環境は十分に準備されている。また、DNA組み換え実験の実施に関わる法律に則った諸手続を完了させ、これを実施するP1、P1A及びP2実験室も完備した。
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