公募研究
神経シナプスの機能破綻は認知症発症の初期病態の一つと考えられている。これまでに、私共は脳内の速い興奮性シナプス伝達の大部分を担うAMPA型グルタミン酸受容体の制御機構の解明に取り組み、AMPA受容体制御蛋白質としてLGI1-ADAM22(リガンド-受容体)を見出した。また、LGI1-ADAM22の結合障害がてんかんや記憶障害を惹起することを明らかにしてきた。前回の公募研究では、(1) LGI1-ADAM22によるAMPA受容体制御機構の一端を明らかにし(Lovero et al, PNAS 2015)、(2) けいれんと知的障害を呈する患者において最初のADAM22変異を見出し、LGI1との結合能低下がその病態機構であることを見出した(Muona et al, Neurol Genet 2016)。本研究では、これまでの研究をさらに発展させ、LGI1-ADAM22の結合様式、分子経路、脳内局在の全容を明らかにすると共に、その破綻による病態機構を解明することを目指す。平成29年度は、LGI1-ADAM22のX線結晶構造解析の知見に基づき(東大、深井周也博士との共同研究)、LGI1-ADAM22がLGI1間の相互作用を介して、ヘテロ4量体として存在することを見出した。また、ヒト側頭葉てんかん患者に見られるLGI1変異のいくつかが、LGI1同士の相互作用に関わるアミノ酸残基と合致することを見出した。この変異を有する遺伝子改変マウスを作成したところ、全てのマウスが致死性てんかんを示すと共に、脳内においてLGI1-ADAM22からなる4量体形成が破綻していることを見出した。これらの知見は、LGI1-ADAM22間の結合のみならず、LGI1-LGI1間の結合も脳の安定な活動に必須であることを示しており、LGI1-ADAM22がシナプス間をつなぐ分子複合体であることを示唆すると言える。
1: 当初の計画以上に進展している
平成29年度は、LGI1-ADAM22、リガンド-受容体の存在様式、結合様式の詳細を明らかにすることができた。そして、当初予想していなかった様式(LGI1同士の相互作用を介したヘテロ4量体)でLGI1-ADAM22が蛋白質複合体を形成していることを見出した。さらに、この4量体形成が破綻するとin vivoでてんかん発作が生じることを明らかにした。これらの知見は本研究の目的の一つである「LGI1-ADAM22の結合様式、分子経路、脳内局在の全容を明らかにする」に大きく貢献できるものと考えられる。
平成29年度の研究成果をさらに発展させ、(1) LGI1を中心とする蛋白質ネットワークの加齢に伴う変化、(2) LGI1-ADAM22分子経路の破綻による病態機構の解明、(3) 脳内LGI1の局在解析・可視化・定量法の開発を通して、LGI1-ADAM22システムの老化が認知症発症に果たす役割を解明していく。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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