研究領域 | 脳タンパク質老化と認知症制御 |
研究課題/領域番号 |
17H05711
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
濱田 耕造 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (00311358)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カルシウム(Ca2+) / 認知症 / タウ / αシヌクレイン / 小胞体 / タンパク質 / 老化 / 構造変化 |
研究実績の概要 |
認知症の発症過程でタウやαシヌクレインなどのタンパク質が神経細胞内でモノマーからオリゴマーそして繊維状構造へと構造変化することが知られている。しかし、この「タンパク質老化」と呼ばれる構造変化プロセスが細胞内でどのように制御され毒性を獲得するのか完全には理解されていない。アルツハイマー病患者の細胞では小胞体カルシウム(Ca2+)シグナリングの異常が報告されている。最近では小胞体とミトコンドリアが接する部位(MAM)が病態メカニズムとして注目され、アルツハイマー病の原因タンパク質が小胞体Ca2+シグナリングに作用する報告も蓄積している。我々はこれまで小胞体Ca2+が小胞体ストレスとオートファジーを調節し神経変性を起こすメカニズムについて研究を行い、小胞体Ca2+チャネルの動作原理を解明した(PNAS,2017; 日刊工業新聞/科学新聞/化学工業日報に掲載)。 本年度はタンパク質老化を起こす因子(TauとαSyn)と小胞体Ca2+との相互作用を調べた。スプライスバリアントにより生じるTauアイソフォームの発現プラスミドを構築・発現し、小胞体Ca2+放出を測定した。結果、Tauタンパク質が小胞体Ca2+放出を調節すること、更にこの調節がアイソフォームに依存することを見出した。更に我々はαシヌクレイン(αSyn)を過剰発現し、線維化αSynを添加して小胞体Ca2+放出を測定した。結果、αSynも同様に小胞体Ca2+放出を調節することを見出した。ハンチンチン(Htt)のポリグルタミン鎖伸長変異体も同様に小胞体Ca2+放出を調節することから、これら全てのタンパク質老化因子に共通する小胞体Ca2+調節メカニズムの存在が示唆された。今後はこの共通の分子ターゲットを同定し分子機構を解明したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はタウやポリグルタミンに加えて、新たにαシヌクレインが小胞体カルシウムに及ぼす効果を調べるための予備実験とその追試実験を行うことができた。興味深いことに、αシヌクレインがタウと同様に小胞体カルシウム放出を制御することが分かって来た。これは共通原理の存在を示唆し、分子メカニズムを解明するための手掛かりを得た。
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今後の研究の推進方策 |
新たに見い出されたαシヌクレインタンパク質の小胞体カルシウムへの作用は、タウやαシヌクレインそしてポリグルタミンなどのタンパク質老化因子に共通の作用機序が存在する可能性を強く示唆した。これは認知症における脳機能低下や毒性機序の理解に新しい手掛かりを与えるものと期待される。今後は、「小胞体タンパク質老化センサー」が小胞体に存在すると仮説を立て実験を行う。タウやαシヌクレインそしてポリグルタミンなどのタンパク質老化因子は全て凝集体や線維化などの特有の構造変化を起こすことが知られている。今後はこのタンパク質構造変化の共通点に着目して、小胞体に存在する新しいタイプのタンパク質構造センサー機構を同定し分子機構の解明を行う。
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