研究領域 | 脳タンパク質老化と認知症制御 |
研究課題/領域番号 |
17H05712
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
加藤 孝一 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 脳病態統合イメージングセンター, 室長 (50382198)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | PET / 髄鞘化 / ミクログリア / イメージング |
研究実績の概要 |
髄鞘の障害はアルツハイマー病等の認知症性疾患において認められる。したがって、髄鞘の変化をPETで定量することができれば、髄鞘イメージングが認知症を鑑別する新しい指標に加わる可能性も出てくる。さらに、脱髄を伴う髄鞘の障害には活性化ミクログリアの活動が関わっている。ミクログリアの作用には、障害性のみならず細胞保護性のものもあり、その活動の見極めは治療効果の評価だけでなく、治療の選択を見極める標的と成り得る。 まず、申請者は既存の髄鞘化イメージングPETトレーサーであるMeDASのモデル動物に対する画像が髄鞘化の変化に対して十分な特異性と定量性を示していないのは、11C標識MeDASが放射標識条件下において化学的に不安定であり、放射分解物が容易に生ずることが問題と考えた。そこで、原因と考えられるスチルベン骨格を、放射標識条件下で安定と予想されるトリアゾールに置換したclick1-3を標的分子に設定した。一方、まったく異なる新規分子骨格であるベンズイミダゾール化合物についても標的分子として設計した。29年度はclick1について、その標識前駆体も含めた合成、および標識合成の検討を行った。またclick2および3、ならびにベンズイミダゾール化合物についても標識前駆体までの合成に成功している。 また、ミクログリアの活動をイメージングする標的としては、プリン受容体であるP2X7を採り上げた。ピログルタミン酸ベンジルアミド誘導体はGSKにより開発されたP2X7阻害剤であるが、既存の誘導体をPETトレーサー化する試みでは、我々のグループを含めいくつかの研究グループにおいてこれまでに十分な成果を得られていない。そこで申請者はGSK化合物を改良する目的でピログルタミン酸フェネチルアミド誘導体を設計、合成および標識合成し、脳炎症モデルラットを用いたPETにより評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回新たに髄鞘化PETトレーサーとして設計した分子は、(I) [11C]MeDASあるいは[11C]PiBと同程度の分子サイズ、(II) 芳香族ジアミン構造、(III) 髄鞘ミエリン塩基タンパク質のβシート構造を認識するための適度な平面性、の三点を基本分子設計とした化学構造を有するものである。これらの要素は、従来開発されてきた髄鞘化特異的PETトレーサーの特徴を総合的に判断し、髄鞘に対する親和性を高めるため目的で構造的に必須と考えたものである。さらに、従来のトレーサーである[11C]MeDASにはスチルベン骨格に起因する放射化学的安定性に関わる問題が認められていたが、オレフィン部位を環上分子であるトリアゾール内に取込むことにより、その安定性の問題を克服することを考案している。本年度は新しいトレーサーとなる化合物、およびその標識前駆体となる化合物の合成、ならびに標識合成の検討を行う予定でいたが、1化合物の合成を達成し、3化合物についても前駆体までを合成し、今後の見通しを立てることができた。 29年度は、新規ピログルタミン酸フェネチルアミド誘導体の合成、標識合成、及び評価を行う予定でいたが、m-CF3および無置換の2種類の新規化合物についてそれらを達成することができた。その結果、m-CF3置換体はP2X7に対して無置換よりも高い親和性を示すことが明らかとなった。ただし、m-CF3置換体の親和性はピログルタミン酸ベンジルアミド類よりも低く、さらなる改良が必要である。 このように本研究計画は概ね予定通り進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
29年度当初に設計した4化合物について、11C標識までの合成を完成させる。また、in vitroでの評価も重要であることから、切片ならびにホモジネートを用いた評価を早急に行う。 本研究では、髄鞘化を評価知り動物として国立精神・神経医療研究センター神経研究所の免疫研究部で開発された実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルラットを用いてトレーサーの探索を行うこととしているため、in vitro での評価と平行してin vivoの評価の準備を行う。 本研究で開発された髄鞘化PETトレーサーは、アミロイドあるいはタウイメージングとの比較検討を予定している。これらの点については、本領域の班員が世界最先端の研究成果を上げているので、積極的に協力して共同研究を進めて行きたいと考えている。 P2X7トレーサーについても、他のフェネチルアミド置換体を合成し評価を行う予定である。
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