研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
17H05714
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
川合 真紀 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10332595)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | NADP / 光合成 / プロトン駆動力 / レドックス |
研究実績の概要 |
葉緑体の光化学系において、NADPHは光で駆動されるリニア電子伝達の最終電子受容体NADP+の還元によって生成し、ATPは電子伝達で形成したプロトン勾配を利用して合成される。本研究では、プロトン駆動力とNADP量的制御のクロストーク解明を目的とし、I. NADPプールサイズがプロトン駆動力に及ぼす影響の解明、II. プロトン駆動力によるNADK活性制御機構の解明の2テーマを実施している。本年度の研究では、まずI.の解析を行う為の準備として、葉緑体NADキナーゼを欠損するnadk2変異シロイヌナズナ系統の生育光条件の再検討を行った。nadk2変異体は日周期の存在する条件では著しく矮小となるが、恒光条件では生育は悪いながらも生育し、種子をつける事が可能である。しかし、葉が十分に大きくならないため光合成測定等の実験が非常に難しい状態であった。そこで本年度は光合成測定が可能になる生育条件を検討した結果、ある光条件(赤色光/青色光比=2.0 連続光)によりかなりの大きさにまで葉を展開させることができることがわかった。この植物体を用いて今後プロトン駆動力の比較評価をおこなうことが可能となった。また、本課題では、NADPプールサイズが異なる植物材料を作出することを計画していた。そこで、本年度は、NADP合成の前駆物質であるキノリン酸を用いた葉緑体NADPプールサイズの改変法を確立した。さらに、光還元力分配変異体であるinap1の変動光環境におけるNADK活性を測定した。その結果、野生型(Col-0系統)と比較してinap1変異体では光照射に応答してNADK活性化が亢進すること、消灯後のNADK活性低下が遅延することを明らかにした。inap1の原因遺伝子はFd/Trx還元酵素の機能欠損であることから、光条件に応答した葉緑体内レドックスシグナルネットワークの攪乱がおきていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究はプロトン駆動力とNADP量的制御のクロストーク解明を目的としており、研究期間中に、I. プロトン駆動力と葉緑体NADPの相関関係、および、II. プロトン駆動力によるNADK活性制御機構の2点の解明を計画している。項目Iについては、プロトン駆動力と葉緑体NADPの相関関係を解明するために必要となる生物試料の構築が平成29年度の重要な達成目標であった。細胞質でNADプールサイズを段階的に制御可能な技術を応用することで、葉緑体でNADPプールサイズを段階的に制御可能な手法構築に成功し、本年度の目標を達成した。 項目IIについては、NADK活性制御機構を解明するために必要となる、信頼性の高いNADK活性手法の構築が本年度の重要な達成目標である。迅速抽出法と発光測定法を組み合わせることで高精度にNADPを抽出・測定することが可能となり、in plantaおよびin organello NADK活性測定法の構築に成功し、本年度の目標を達成した。また、構築した測定法を活用することでプロトン駆動力変異体ではNADK活性が変化することを明らかにし、これまで推定されていた「プロトン駆動力とNADP量的制御機構の間の交互作用(クロストーク)」の存在を明らかにした。以上の2項目の研究の進展状況から、当初計画以上に進行できていると評価している
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今後の研究の推進方策 |
生育条件の再検討によって矮性変異体であるnadk2の大型化に成功したことから、本年度はnadk2変異体を用いて、葉緑体NADP下限値におけるプロトン駆動力を評価する。さらに、葉緑体NADP量を段階的に制御し、NADPプールサイズの変化がプロトン駆動力に与える影響を解明する。また、FdからTrxへの光還元力分配が滞ることによってNADKの活性化が促進されることを明らかにしたが、そのメカニズムについては不明である。本年度は光還元力分配からNADK活性化に至る制御経路を特定することで、プロトン駆動力によるNADK活性制御ネットワークの一端を解明する。具体的には、プロトン駆動力変異体におけるNADK活性変動の再現性を確認するため、光化学系電子伝達阻害剤を用いて誘導的にプロトン駆動力を低下させ、NADK活性化経路に光化学系が関与する可能性を評価する。また、NADK活性を呈する葉緑体ストロマ画分を分離抽出し、還元剤(DTT)処理および光照射によるNADK活性化を再評価する。NADK2タンパク質は大腸菌組換えタンパク質によるin vitro実験系では十分な活性が評価できないことから、葉緑体タンパク質との相互作用によってNADK活性複合体を形成している可能性がある。NADK活性を呈する葉緑体ストロマ粗抽出液から一般的なクロマトグラフィーの手法で分離精製すると同時に、還元剤による分取画分の活性化率などと合わせて、in vivoでのNADK活性成立に至る生化学的・分子生物学的構成要件を明らかにする。
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