葉緑体の光化学系において、NADPHは光で駆動されるリニア電子伝達の最終電子受容体NADP+の還元によって生成し、ATPは電子伝達で形成したプロトン勾配を利用して合成される。電子伝達量は、電子を受容可能なNADPプールサイズ(NADP+とNADPHの総和)によって制限される一方で、NADキナーゼ(NADK)によるNADP+合成にはATPが必要である。すなわち、NADP+量によってATP合成が制限され、ATP量によってNADP+合成が制限されるという交互作用(クロストーク)の存在が推定されるが、これまでNADPプールサイズをプロトン駆動力の制御要因として着目した研究例はない。本研究は、NADPプールサイズがプロトン駆動力に及ぼす影響と、プロトン駆動力を形成する電子伝達経路がNADK活性に及ぼす影響を解明することを目的として実施した。はじめに、葉緑体NADPプールサイズが変動する光に応答して増減を繰り返す現象を見出した。さらに、葉緑体型NADK酵素(NADK2)の活性化と基質NAD+の供給が葉緑体NADP プールサイズの律速となることを明らかにした。ここから、光照射とNAD+前駆体処理を組み合わせることでNADPプールサイズを制御する手法を構築し、NADPプールサイズの変動に応答してプロトン駆動力が変化することを明らかにした。また、NADP恒常性変異体の解析から葉緑体レドックス制御ネットワークのうちフェレドキシン(Fd)-チオレドキシンm(Trx-m)経路によってNADK2活性が抑制的に制御されることを明らかにした。今後、これらの知見と合わせて光依存的にNADK2活性を促進的に制御する経路について解析を進めることで、変動環境下において電子受容体であるNADPプールサイズを調節して光合成活性を最適化して環境に順応する機構が解明されることが期待される。
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