本研究は、葉緑体由来FoF1のH+駆動力を使用したH+透過に着目し、①多分子計測系によるエネルギー論的解析と②一分子計測系による速度論的解析を行い、葉緑体由来FoF1が行うH+駆動力を使用したH+透過に関する機構の理解を目的としている。また、領域内の共同研究として③ロドプシンやPSIIを用いた人工光合成の作製を試みた。 ①多分子計測系によるエネルギー論的解析:久堀班らにより葉緑体由来FoF1の発現系と精製方法が確立され、速度論的解析を行っている。 ②一分子計測系による速度論的解析:一分子計測系を行うため、均一粒径を持つ人工脂質膜小胞(リポソーム)の開発を行なった。この均一粒径リポソームは任意の粒径を持つリポソームを高精度(D:0.6-5 um/CV:~10%)に作製することが可能である。この実験系で作られたリポソームの体積は~100 aLと非常に小さく様々な膜輸送体の一分子輸送活性計測が可能になると考えられる。また、膜輸送体の活性計測だけでなく、微小人工リアクタとして使用することも可能であることから非常に有用性に富んだ実験系だと考えている。 現在のところ、粒径が2 umのリポソームに好熱菌由来FoF1-ATP合成酵素を再構成し、ATP駆動によるプロトン輸送活性の測定を試みたところ、プロトン輸送に伴ったリポソーム内のpH低下を検出することに成功した。さらに、FoF1-ATP合成酵素の濃度を減少させていき、一分子由来の活性の検出にも成功した。その時のプロトン輸送活性は<毎秒100sと多分子計測と同等の活性であった。 ③人工光合成の作製:上述の均一粒径リポソームを用いてロドプシンやPSIIの再構成を試みている。リポソーム内で、無細胞蛋白質合成系を用いたロドプシンの発現を試みたところ、膜上にロドプシンが局在している様子が確認できた。PSIIの再構成条件は現在検討中である。
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