研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
17H05718
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺島 一郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40211388)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光合成有効放射 / 光化学系Ⅰ / 遠赤光 |
研究実績の概要 |
野外の光環境は一定ではなく変動している。申請者らは、短時間の変動光処理によって光化学系Iの光阻害が起こることを見出した。この阻害は、フィンランドのグループが報告したようにシロイヌナズナのpgr5変異体で顕著だが、シロイヌナズナ野生型、イネ、ヒマワリの他、いくつかの野生植物でも見られた。ところが、光化学系Iの光阻害は、変動光処理時に遠赤色(FR)光を存在させることによってほぼ完全に抑えられた。 本研究では、遠赤色光による光化学系Iの光阻害回避のメカニズムを解明するとともに、これまでほとんど研究されてこなかった遠赤色光の光合成に及ぼす効果も解析中である。本研究で、変動光の強光時に酸化された光化学系I反応中心(P700+)の割合が多いと、光化学系Iが保護されることが明らかになった。シトクロムb/f複合体からの電子伝達速度が、光化学系Iの電子伝達活性よりも遅くなる局面で、P700+の割合は大きくなる。弱光で栽培した耐陰性植物クワズイモは、遠赤色光が存在しない条件でも変動光光阻害に耐性があった。これは、弱光への馴化によってP700に対するb/fの量が著しく低いことで説明された。また、神奈川大学・井上和仁教授らとのESRを用いた共同研究で、光化学系Iの光阻害部位を特定した。 遠赤光存在の光合成への効果は、変動光中の弱光時に顕著であり、光化学系IIの量子収率を有意に上昇させ、それによって光合成活性を上昇させた。このメカニズムを精査中である。これまでに、遠赤光はチラコイド膜のプロトン駆動力に大きな影響を及ぼすことを見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデル植物シロイヌナズナ、耐陰性植物クワズイモ、などを用いて、強光と弱光が交互に変化する変動光に対する光化学系Iの挙動を解析した。変動光の強光時に、酸化された光化学系I反応中心(P700+)の割合が多いと、光化学系Iが保護されることが明らかになった。シトクロムb/f複合体からの電子伝達速度が、光化学系Iの電子伝達活性よりも遅くなるような場合に、P700+の割合は大きくなる。光化学系Iに流入する電子は、吸収された光エネルギーが光化学系Iに多く分配される、光化学系IIアンテナにおける熱散逸の割合が増える、QAの還元度合が高まる、チラコイド内腔の酸性化によってシトクロムb/f複合体の電子伝達速度が遅くなる、などの条件で減少する。一方、光化学系Iのアンテナが遠赤光によって励起されるとP700からの電子伝達速度は大きくなる。弱光栽培の耐陰性植物クワズイモには、遠赤光が存在しない場合でも、光化学系Iは変動光処理に抵抗性があった。この理由は、弱光環境への馴化によってP700に対するb/fの量が著しく低いためであった。 遠赤光存在の効果は、変動光中の弱光時に顕著であり、光化学系IIの量子収率を有意に上昇させる効果がある。遠赤光は、チラコイド膜のプロトン駆動力に大きな影響を及ぼすことが明らかになった。このメカニズムについては精査中である。
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今後の研究の推進方策 |
光化学系Iの光阻害回避における光化学系Iの循環的電子伝達の役割の精査。光化学系I循環的電子伝達の活性が高いと、P700の酸化には有効である。ただ、この電子はb/fに流入するはずである。PSIへの電子の流入を増やす効果よりも、チラコイド膜内腔のプロトン濃度の上昇によるb/fの光合成調節の効果が高いときには有効だと考えられる。こうなる条件を精査し、光化学系Iサイクリック伝達系の寄与を正確に評価する。 遠赤光の存在が光合成に及ぼす効果について研究をすすめる。遠赤光の効果は、変動光中の弱光時に顕著であり、光化学系IIの量子収率を有意に上昇させる効果がある。特に、プロトン以外のイオンの出入りに注意して研究する。 弱光栽培のクワズイモは、クロロフィルa/b比が低いにも関わらず、低温蛍光スペクトルで光化学系Iへのエネルギー分配が大きいことが示された。この原因について精査する。 波長組成可変光源、FR光領域の光量子束密度計、リン光による気相酸素計を開発し、正確な量子収率測定システムを完成する。
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