酸素発生型の光合成を行うシアノバクテリアにおいて、光を含む環境変化への遺伝子発現応答系の中枢には高度に保存された2成分制御系群が機能している。これらは明反応の機能状態と密接な関係をもって制御されるが、実際に検知されるシグナルをはじめ、制御系の実体には不明な点が多く残されている。本課題では、シアノバクテリアに高度に保存された3種ヒスチジンキナーゼ(Hik2、Hik34、NblS)の機能解明を目指した研究を実施した。 Hik2とHik34はどちらもレスポンスレギュレーターRre1のリン酸化を介して、下流のシャペロン遺伝子群の転写調節に関わっている。hik34欠失株では制御下流遺伝子の高温発現誘導が起こらないことから、研究開始時にはHik34を高温センサーと想定した。しかし、今回の研究によりhik34から誘導された抑圧変異株では、Hik34を欠くにも拘らず正常の高温発現誘導が回復することを明らかになった。一方で、Rre1下流の遺伝子発現は明反応系のレドックス変化にも応答するが、この発現誘導はHik34欠損により大きな影響を受けていた。以上のことから、Rre1リン酸化を正に調節しているのはHik2であり、Hik34はこのリン酸化に対する負の調節を解除する働きを持つことが示唆された。 NblSは下流のレスポンスレギュレーターRpaBのリン酸化に関わるヒスチジンキナーゼであり、低温や強光ストレス時にRpaBを脱リン酸化することでストレスに応じた転写を誘導している。本研究ではNblSが細胞内でチラコイド膜に局在し、PSII関連の複合体と共局在することを突き止めることに成功した。また、細胞内でNblSを過剰発現させると通常時でも下流遺伝子発現が活性化されることが示され、複合体形成とNblS活性制御の関係性が示唆された。
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