研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
17H05721
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 祐樹 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (10376634)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光化学系II / プロトン共役電子移動 / 赤外分光法 / 分光電気化学法 / 酸化還元電位 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、光合成において光エネルギー変換を担う光化学系IIの電子伝達反応につき、プロトン駆動力による制御機構の解明を目的とするものである。光化学系IIでは、プロトン濃度が低下すると第二キノンQBの酸化還元電位Emが低下することが考えられる。その結果、第一キノンQAとの電子授受平衡がQA側にシフトして反応が抑制され、電荷再結合が起こりやすくなることが想定される。本研究はこのことを検証すべく、申請者らが確立してきた光誘起FTIR差スペクトル法とFTIR分光電気化学法を用いて、次の課題2点に取り組んでいる:(i) 電荷再結合速度のpH依存性 (ii) QBおよびQAのEmのpH依存性とその要因究明。初年度は、まず(i)を検討したところ、pH 5.0-7.5の範囲で1閃光照射によるS2QB-/S1QB FTIR差スペクトルを測定し、QBに特徴的な1745 cm-1のピークの時間挙動から、QB-の緩和を観測した。その結果、pHが高い程、QB-の緩和速度が速くなることが示された。二重指数関数によるフィッティングの結果、時定数が速い成分と200秒以上の遅い成分があり、pH上昇により速い緩和成分の量比が上がること、そしてpKaがおよそ6.3に存在することが明らかとなった。これは、QBにはpKa 6.3付近で酸化還元電位が変化する2つの状態があり、高いpHにおいて低電位状態に移行することにより、QA・QB間の一電子平衡がQA側に片寄り、電荷再結合が促されたことを意味している。このように、PSIIには、反応が過剰に進行して還元側のpHが上昇すると、逆電子移動により電荷再結合を促進し、正方向の電子移動反応を抑制する機構が存在すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の課題として掲げた、光化学系IIにおける電荷再結合速度のpH依存性をほぼ明らかとすることができ、当初の予定を達成できたといえる。また、第一キノンQAの酸化還元電位を、直接的な観測法であるFTIR法を用いて初めて計測することに成功し、翌年度の課題に向けた研究を遂行しつつある
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今後の研究の推進方策 |
QAおよびQBの酸化還元電位のpH依存性を実測することで、初年度に明らかにした電荷再結合速度のpH依存性の要因解明に取り組む。
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