研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
17H05724
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大岡 宏造 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (30201966)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光合成 / 反応中心 / シトクロム複合体 / ラジカルペア / ESR / スピン分極 / ヘリオバクテリア / 緑色イオウ細菌 |
研究実績の概要 |
1.ヘリオバクテリア反応中心の結晶化・構造解析:回折実験可能な回折強度データが得られており、さらなる分解能向上を目指し、諸条件の再検討、および精密化を行った。昨年(2017年)、米国のグループがヘリオバクテリア反応中心の立体構造を報告したが、そこにはキノンは存在していなかった。解析中の我々のデータはキノンの存在を示唆しており、電子移動経路上の機能について検討中である。 2.ヘリオバクテリア配向膜におけるP800+MQ-に由来する光誘導電子スピン分極信号の解析:時間分解ESRで観察されるスピン分極信号は、前駆体ラジカルペアに由来するスピン分極の影響を受ける。この影響の程度を考慮し、本来のP800+MQ-に由来するスピン分極信号をsimulationにより求めた。光化学系1反応中心のキノンA1の配向と似ているものの、わずかに異なった場所に結合していることが示唆された。 3.緑色イオウ細菌のRieskeタンパク/ CT0073(cyt c-556)/cyt cz間の相互作用解析: Rieskeタンパクの可溶性ドメインの構造解析に成功した。すでにCT0073遺伝子産物の生化学的特徴は膜結合型cyt c-556に酷似していることを確認している。今回、膜標品を用いた閃光照射実験により、CT0073はcyt czに電子を渡すことができることを明らかにした。このことはCT0073遺伝子産物はcyt c-556そのものであることを意味する。cyt c-556はRieske/cyt b複合体とcyt cz間の電子伝達体として機能していることが明らかとなった。 4.緑色イオウ細菌のRieske/cyt b型シトクロム複合体の精製: RieskeタンパクのC末にHisタグを付加した株から、界面活性剤SM-1200による可溶化、精製を好気条件下で試みた。Ni樹脂に吸着したが、容易に解体することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘリオバクテリア反応中心の構造基盤に関わる解析については、当初の想定以上の結果が得られ、順調に進んでいる。研究実績の概要で述べているが、我々の標品中には長く議論の的となっていた二次電子受容体キノンが見出された。このことはP800+MQ-に由来する電子スピン分極信号が観察されることからも強く支持される。さらに質量分析(LC/MS)から反応中心P800当たり0.8個のMQ-8/MQ-9の存在も確認できている。光合成反応中心の機能と進化についての大きなブレークスルーが期待される。 Rieskeタンパク/ cyt c-556/cyt cz間の相互作用部位解析については、当初、NMR法による解析を推し進める予定であったが、まずはRieskeタンパク/ cyt c-556の共結晶化を試みることにした。その理由は個々のタンパクの結晶化、構造解析はすでに我々が独自に進めた研究成果であり、共結晶化による解析も容易に進展することが期待できたからである。しかしながら現時点では、共結晶が得られていない。 Rieske/cyt b型シトクロム複合体の精製については、すでに作成した6種類のコンストラクトのうち、RieskeタンパクのC末にHisタグを付加した株が有効であることをすでに確認している。界面活性剤SM-1200による可溶化を試みているが、Ni樹脂に吸着後、イミダゾール濃度を段階的に上げていくことにより複数個のバンドが溶出することがSDS-PAGE解析で分かった。そこでメインバンドを切り取り、in gel digestion後、LC/MS/MSによる解析を行ったところ、cyt bおよびRieskeタンパクに由来するペプチド断片が回収されていることが判明した。Rieske/cyt bの可溶化とNi樹脂への吸着には成功しているが、精製度と収率が低いことが課題として残った。
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今後の研究の推進方策 |
ホモダイマー型反応中心の構造基盤に関わる解析:我々のヘリオバクテリア反応中心の構造データはキノンの存在を明らかにした。結合部位は光化学系1反応中心のキノンA1の配向と似ているものの、わずかに異なった場所に結合していることも示唆された。一方において米国のアリゾナグループ(Kevinら)は、ヘリオバクテリアの膜標品に光照射することにより、還元型キノン(キノール)が蓄積することを見出している。反応中心に結合するキノンは二次電子受容体(A1)として機能すると期待されるが、どのような反応機構でキノールが生じるのか不明である。推測される電子移動経路(P800 -> A0 -> A1 -> FX)におけるキノンの機能を、再度、過渡吸収測定により検証していく必要がある。さらにキノールの生成はフーリエ変換赤外分光(FTIR)を用いることで検出できる可能がある。キノール生成とそれにともなう構造変化をFTIR法により検出し、反応機構を探る予定である。さらに緑色イオウ細菌反応中心の結晶化・構造解析も推し進める。コアタンパクPscAのN末端にHisタグを付加した発現株からの大量精製と、嫌気条件下での結晶化を行う。 Rieskeタンパク/ cyt c-556/cyt cz間の相互作用部位解析については、NMR法による解析を推し進める。現在、最小培地でのcyt c-556やcyt czの発現量が低いので、発現条件を再度検討する必要がある。13Cおよび15N置換したタンパク標品を調製し、アミノ酸残基の帰属と相互作用部位の解析を行う。 Rieske/cyt b型シトクロム複合体の精製については、界面活性剤オクチルグルコシド(OG)による可溶化を検討する。これまでの経験からOGによる処理は、Ni樹脂への吸着を妨げるBChl cの抽出を抑えることができ、Rieske/cyt bの収率向上が見込める。
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