研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
17H05725
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中井 正人 大阪大学, たんぱく質研究所, 准教授 (90222158)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 葉緑体 / 光合成 / チラコイド / 蛋白質輸送 / 光化学系複合体 |
研究実績の概要 |
葉緑体チラコイド膜におけるプロトン駆動力は、そこに正しく組み込まれる数百種類ものチラコイド蛋白質によって生み出されている。これらチラコイド膜を形成する蛋白質は、葉緑体のゲノムにコードされ葉緑体内で合成されチラコイドに組み込まれるものに加えて、核のゲノムにコードされ細胞質ゾルで合成後、2重の包膜を通過して葉緑体へ運ばれさらにチラコイドに局在化するものがある。チラコイド膜形成に関しては多くの複雑なステップが未解決の問題として残されている。本研究では、チラコイドプロトン駆動力の形成と維持に関連した3つ課題に焦点を当て、その解明を目指す。すなわち、1)内包膜を通過してからチラコイド膜へと運ばれる膜蛋白質の局在化制御のメカニズム、2)葉緑体ゲノムコードの膜蛋白質の内包膜とチラコイド膜間での仕分け制御のメカニズム、3)チラコイドにおいてシトクロムb6f複合体形成に必須の新奇因子の役割の解析、である。H29年度の解析においては、特に、1)および3)について解析を進めた。1)については、チラコイドに輸送されるクロロフィル結合蛋白質が、内包膜通過途上において既に、チラコイドへのターゲティング因子と相互作用を開始していることを示すデータを得ている。3)に関しては、b6f複合体に含まれるサブユニットやコファクターのアセンブリーに着目して研究を進めた。その結果、この因子を欠失した変異体では、b6f複合体の形成量が大幅に減少しているものの、個々のサブユニット量に関しては、減少量に差が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光合成電子伝達の場であるチラコイドには、光化学系の複合体だけでなく多くの蛋白質が正しく輸送されアセンブリーする必要がある。葉緑体ゲノムコードのチラコイド膜蛋白質の場合は、葉緑体ストロマで翻訳が開始すると同時に、チラコイドへの組み込みやアセンブリーが co-translational に進むと考えられる。一方、その他大多数の核コードのチラコイド膜蛋白質の場合は、細胞質ゾルで合成された後にまず最初に葉緑体の二重の包膜を通過する必要がある。本年度の解析では、この輸送過程をチラコイドに局在するクロロフィル結合蛋白質をモデル前駆体として、in vitro 輸送実験により再現することに成功している。さらに、チラコイドへのターゲティング因子が、包膜を通過途上の前駆体に既に相互作用していることを示すデータを得ることにも成功している。b6f複合体の新奇アセンブリー因子についても、トウモロコシ変異体の解析やコファクター付加への影響などについての解析も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
葉緑体包膜透過途上のチラコイド膜蛋白質が既にチラコイドへのターゲティング因子と相互作用しているという結果は、チラコイド膜蛋白質の効率の良い輸送連携機構が包膜とチラコイド膜間に存在する可能性を示唆している。今後は、さらに基質のチラコイド膜蛋白質の種類を増やしたり、化学架橋によりどの領域がどういうタイミングで実際にターゲティング因子と相互作用始めるのかを解析していく。また、ターゲティング因子と内包膜の蛋白質膜透過装置の間の物理的接触・相互作用が存在するのか、生化学的に詰めていく。b6f複合体の新奇アセンブリー因子については、変異体の形質や野生型におけるこの因子の存在状態についてのデータは蓄積しつつある。一方で、それが直接何に関与しているのかについては、まだ決定的証拠を得られていない。この蛋白質が、葉緑体チラコイドで実際に何と相互作用しているのか、その情報から機能に迫りたい。
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