植物による光合成は、水と二酸化炭素から、炭素固定・酸素発生・ATP産生を行う反応で、生命活動の源でもある。植物には、光強度にあわせて余剰なエネルギーを熱として放出する機構(Non photochemical quenching:NPQ)が備わっており、効率的な光合成を実現している。これらは、光合成に伴うルーメン側の酸性化(プロトン濃度上昇)が引き金になることがわかっているが、その制御機構はわかっていない。本研究では、光合成色素クロロフィルがほとんど吸収しない緑色光で働くロドプシンを植物の葉緑体に異種発現させ、人為的に膜を介したプロトン移動を誘起する。これにより、擬似的に強・弱光条件を再現し、その際に起こる植物応答を解析することで、NPQ制御メカニズムを解明することを目的としている。 本年(H30年度)は、(1)内向きプロトンポンプロドプシンと外向きプロトンポンプロドプシンを植物モデルとしてのクラミドモナスおよびシロイヌナズナへの遺伝子導入を行い、その組み換え体においてそれぞれのロドプシン発現を確認した。植物細胞における異種ロドプシンの発現は世界初となる成果である。(2)クラミドモナスについては、NPQ測定を行い内向きプロトンポンプを発現した際に狙い通り光照射によりNPQが有意に増大することを確認した。外向きプロトンポンプでは若干の低下がみられた。このようにロドプシンを用いてNPQを制御することに世界で初めて成功した。シロイヌナズナについては、内向きプロトンポンプの発現は確認できたが、外向きプロトンポンプの発現は確認できなかった。 以上のように、植物にロドプシンを発現させその生理応答(NPQ)を調節するという当初の目的は達成された。
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