絶滅危惧II類の常緑多年生草本タマノカンアオイは、申請者の大学構内の落葉樹林の林床に自生し、1年間に数少ない枚数の葉しかつけない。そのため、大きく変動する温度・光環境下で、葉の光合成系を維持する重要性が非常に高い。本研究ではこの植物を用いて、以下を明らかにすることを目的とする。(1) 高温で光強度の弱い夏期から低温で光強度が強い冬期まで、1年を通して有利とは言えない環境下で、葉の光合成がどのように季節変化するかを調べる。(2) タマノカンアオイの葉はCO2固定速度が低く、過剰な光エネルギーを受けやすい。取り替えのきかない葉をどのような系で保護しているかを調べる。 構内の落葉樹林の林床に広がるアズマネザサにより被陰され、生育が抑制されると考えられている。鉢植えした個体を落葉樹の林床(対照条件)とアズマネザサの下(被陰条件)に置き、栽培環境とともに葉のガス交換・電子伝達パラメータの季節変化を測定した。林床では夏期に光が制限され、特に被陰条件では光強度がかなり低かった。冬期、気温はかなり低かったが、対照条件の光環境は明るくなり、被陰条件でも光強度が増加した。低温・強光になる冬期に、光化学系は光阻害を受けたが、2月には回復した。被陰条件では夏期はかなり光合成系が抑制されていたが、冬期に熱散逸系とともに光合成電子伝達速度およびCO2固定速度が増加した。成熟した葉でも光合成系が環境変化に応じて大きく順化することが明らかになった。 光合成系を維持するために、ミトコンドリア呼吸鎖が過剰光エネルギーの散逸やATP供給にはたらく可能性がある。測定が容易であるシロイヌナズナを用いて、呼吸鎖を阻害したときの光合成系を調べた。呼吸鎖阻害下ではどちらの過程も影響を受け、光照射下で呼吸鎖が光化学系IIの損傷と修復の両方の過程で重要であることが示唆された。
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