研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
17H05734
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
山崎 朋人 高知大学, 教育研究部自然科学系理学部門, 助教 (70512060)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイクロRNA / 光防御 / クラミドモナス |
研究実績の概要 |
LHCSR3遺伝子の発現は、光受容体Phototropin(PHOT)がうけた強光がシグナルとなり、下流の転写因子が活性化されて誘導される。この体系に照らし合わせて様々な実験を行い、その中から以下の新しい知見を得た。 1.miRNA変異株でPHOTが2倍程度多く発現している。:iRNAの生合成が出来ない2種類のmiRNA変異株を用い、PHOT遺伝子のqRT-PCR解析、抗体を作製してのウエスタンブロット解析から、2倍程度発現量が多いことが分かった。miRNAがPHOT遺伝子の発現を負に制御しており、miRNA変異株ではPHOTの発現量が高くなっている可能性が示唆された。 2.PHOTを標的とする可能性の高いmiRNAを複数発見した。:small RNA-seqを行い、3476種のクラミドモナスmiRNAオリジナルリストを作成した。このリストとPHOT mRNA塩基配列を用いたコンピューター予測から、PHOTに作用する可能性の高い19種類のmiRNAを見つけ出した。興味深いことに、19種類中5種類が同じ転写単位から同時に作り出されており、これら5種のmiRNAが同時にPHOTの発現に作用している事が示唆された。 3.miRNAがチューニングする光合成関連遺伝子を発見した。:miRNAに結合するmRNAを網羅的に検出するRIP-seq解析を行い、光化学系2の集光タンパクであるLHCB4(CP29)遺伝子がmiRNAに翻訳抑制のチューニングを受けている可能性が示唆された。LHCB4タンパク質の量を調べたところ、miRNA変異株でLHCB4タンパクが1.5倍程度増加していた。またポリA鎖長解析の結果、LHCB4 mRNAがmiRNA変異株でわずかに短く、miRNA変異株でLHCB4遺伝子の翻訳効率が高い事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始時は、応募時に描いたmiRNAが直接LHCSR3をチューニングしているモデルをベースに、当初計画通りRNAオミクス解析の統合解析を進めた。途中、LHCSR3発現誘導カスケード考慮して実験を行った結果、LHCSR3の発現チューニングは、カスケード最上流にあるPHOTにチューニングによるモデルが正しい可能性が高くなった。新しいモデルに基づいて再解析を行った結果、PHOTを制御する可能性の高いmiRNAが発見され、当初計画通り、LHCSR3の発現を、PHOTの制御を介してチューニングする役割を持つ可能性が高いmiRNAを発見する事に成功した。 また、RNAオミクス統合解析、ウエスタンブロット解析、ポリA鎖長解析の結果から、新たにLHCB4遺伝子がmiRNAによって発現チューニングされている事が強く示唆さされた。PHOTと同様に、LHCB4遺伝子を制御する可能性の高いmiRNAをコンピューター予測により発見する事に成功している。 上記のように、LHCSR3が直接miRNAによってチューニングされているというモデルは誤りであったという問題点があった。しかしPHOTの発現チューニングを介したLHCSR3の発現チューニングという新しいモデルに基づき、PHOTを制御する可能性の高いmiRNAを発見するに至った。同時に光合成関連遺伝子(LHCB4)がmiRNAによってチューニングされている可能性も見出しており、平成29年度は当初計画の目的が達成され、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、PHOT、並びにLHCB4の発現をチューニングしている可能性の高いmiRNAをCRISPR/Cas9によって個別に複数個破壊し、それに伴うそれぞれの遺伝子発現の変化、光合成活性の変化、光防御の変化の解析を行う。この実験により、どのmiRNAがPHOT、LHCB4の発現をチューニングし、そのチューニングによってどのような生理的変化が現れるかを明らかにすることで、miRNAによる光合成能力の最適化分子メカニズム解明に迫る。
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備考 |
国際シンポジウム「ファイトジーンの可能性と未来 IX」にて、招待講演を“microRNA biogenesis and function in Chlamydomonas reinhardtii”というタイトルで行った。平成29年10月20日
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