脳が正常に機能するためには、適切なシナプス競合によって興奮性および抑制性シナプスの数と機能のバランス(E/Iバランス)が制御され、これが維持される必要がある。そして、このためには、貪食作用によるシナプス刈り込み能力や、シナプス剥離能力を有する脳内免疫細胞「マイクログリア」が重要な役割を果たすことが示されてきた。 まず、幼児期の発熱がマイクログリア及びシナプスに与える影響を検証するため、幼児期にあたるマウスの体温を人工的に上昇させた。その結果、マイクログリアが活性化し、抑制性シナプスを優先的に貪食する様子が観察された。 次に、シナプスE/Iバランスが破綻した結果として生じる代表的な脳疾患として、神経細胞の過剰な発射を要因とするてんかんが挙げられる。そこで、代表的な側頭葉てんかんモデルマウスであるカイニン酸モデルを用いて、シナプスE/Iバランス破綻におけるマイクログリアの関与を検証した。その結果、非常に興味深いことに、これらのてんかんモデルマウスにおいて、音刺激弁別試験の成績が低下し、音の有無を正確に判断できないことを発見した。また、これらのマウスでは、側頭葉の一次聴覚野に情報を伝える内側膝状体において、抑制性シナプスの密度が低下するとともに、神経活動が上昇していることが示唆された。さらに、同領域ではマイクログリアが活性化し、神経細胞の細胞体への抑制性シナプスを剥離している様子が確認された。側頭葉てんかん患者では幻聴や聴覚保続が報告されることもあり、今回の発見はその細胞生物学的メカニズムの一端を明らかにした可能性がある。
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