昨年度はSiglec-Hが脳内のミクログリアにのみ発現し、脳常在性マクロファージには発現しないことを明らかにし、Siglec-Hの遺伝子にジフテリア毒素受容体を組み込んだマウスを用いることにより、ミクログリアを特異的に除去できることを示した。このノックインマウス(Siglec-H-DTR)では従来のIba1遺伝子やプロモーターを利用したミクログリア操作マウスよりはミクログリア特異性という点で優れている。これを用いることによりマクロファージとミクログリアの機能の違いやお互いの相互作用の研究に発展させることが可能になると考えられる。脳内ではミクログリアが主要な貪食能を有する細胞なので、ミクログリア自身がジフテリアトキシンによって細胞死に至った時に、どのようにしてミクログリアが除去(スクラップ)されるか検討した。脳内でミクログリアが特異的に障害されたとき、GFAPの発現上昇をともなってアストロサイトの活性化が観察された。また、ミクログリアの残骸がアストロサイトに貪食されている像も観察された。このことから、普段は貪食能を有しないアストロサイトが、ミクログリアが存在しない条件下では、代償的に貪食能を発揮することが明らかになった。このような代償性貪食が、より生理的な条件下でも生じるかどうかは検討中である。現時点ではアストロサイトの代償性貪食機能の作動機序は不明であるが、アストロサイトには従来から知られている機能に加え、新たにスクラッパーとしての機能が存在することが示された。
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