研究領域 | スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御 |
研究課題/領域番号 |
17H05744
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山下 貴之 名古屋大学, 環境医学研究所, 准教授 (40466321)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大脳皮質 / 連合学習 / パッチクランプ / 投射細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、連合学習の成立前後において、大脳皮質一次感覚野から他の大脳皮質領域に送出されるシグナルが変化するメカニズムを細胞・シナプス・ネットワークレベルでの解明を目指すものである。これまでに、私たちの研究により、洞毛刺激と水報酬を連合させる課題をマウスに学習させると、大脳皮質一次体性感覚野(S1)から同側の二次体性感覚野(S2)へ投射する細胞に学習依存的に感覚刺激後の遅い脱分極が発現することが明らかとなった(Yamashita & Petersen, 2016)。一方で、S1から一次運動野洞毛領域(wM1)へと投射する細胞においては、学習により、感覚刺激後の遅い脱分極が消失する。 本研究では、上記現象のメカニズムを調べるため、連合学習課題を十分に習得したマウス個体と習得前の個体からそれぞれ脳スライス標本を作成し、S1からの情報送出を担う投射細胞を含むS1神経細胞に入力するシナプスの特性を網羅的に測定・比較して、学習により変化する重要入力経路を洗い出すことを目的としている。 これまでに、PythonおよびArduinoを用いた課題学習トレーニング実験系の新規構築、S1回路を保存した脳スライス作成技術の確立、4つの細胞から同時にパッチクランプ記録が可能な電気生理学セットアップの構築を行った。その過程において、課題学習後にマウスに特徴的な洞毛運動が生じることを予期せず発見した。この特徴的な洞毛運動は、①感覚刺激後のprotraction、②報酬予期リッキングと同期したリズミカルな運動、③報酬獲得後のwhiskingという3段階に分割できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初使用を予定していた課題学習トレーニング実験系には、共同研究先より入手した既存のプログラムを用いていたため、自身による実験パラダイムの変更が難しかった。したがって、PythonおよびArduinoを用いた実験系を新たに組み直し、簡単にパラダイムの変更を可能とした。S1回路を保存した脳スライス作成技術については、スイス連邦工科大学ローザンヌ校Petersen研究室にて技術を習得し、必要雑品を所属大学の装置開発グループの協力により作成することで、自身の研究室にて確立した。また、4つの細胞から同時にパッチクランプ記録が可能な電気生理学セットアップを一から構築した。したがって、本研究に必要な技術とハードウェアを順調に確立してきている。 また、洞毛刺激と水報酬とを連合させる課題の学習後のマウスを観察すると、感覚刺激後に特徴的な洞毛運動を示すことを予期せず発見した。この特徴的な洞毛運動は、①感覚刺激後のprotraction、②報酬予期リッキングと同期したリズミカルな運動、③報酬獲得後のwhiskingという3段階に分割できた。今後このような特徴的な洞毛運動の発生メカニズムを調べるため、候補脳領域の阻害後の洞毛運動を観察する。 以上のように、本研究で必要な技術・ハードウェアの確立とともに、予期せぬ新たな発見に基づく新規の研究が進展していることから、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、前年度までに確立した実験系を用いて、課題学習前後のS1神経回路の変化について網羅的に解析を進める。まず、逆行性蛍光トレーサーを用いて、S1からS2やwM1に投射するS1錐体細胞を蛍光標識する。S1回路を保存した脳スライス標本を作成し、標識細胞を含む4つの細胞から同時にパッチクランプ記録を行い、個々の細胞に活動電位を誘発させて、他の記録細胞における興奮性後シナプス応答の存在と振幅を検討する。記録細胞を皮質相互とに分類し、大4層に入力された感覚情報のS1内での修飾と他の皮質領野へと送出されるか、又、その様式が学習により変化するか、について計算論的な解析を行う。 上記と並行して、新たに発見した学習後の洞毛運動の発生メカニズムを調べるため、候補脳領域を薬理遺伝学的に阻害し、洞毛運動への影響を調べる。
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