研究実績の概要 |
本研究は、連合学習の成立前後において、大脳皮質一次感覚野から他の大脳皮質領域に送出されるシグナルが変化するメカニズムを細胞・シナプス・ネットワークレベルでの解明を目指すものである。これまでに、私たちの研究により、洞毛刺激と水報酬を連合させる課題をマウスに学習させると、大脳皮質一次体性感覚野(S1)から同側の二次体性感覚野(S2)へ投射する細胞に学習依存的に感覚刺激後の遅い脱分極が発現することが明らかとなった(Yamashita & Petersen, 2016)。一方で、S1から一次運動野洞毛領域(wM1)へと投射する細胞においては、学習により、感覚刺激後の遅い脱分極が消失する。 本研究では、上記現象のメカニズムを調べるため、連合学習課題を十分に習得したマウス個体と習得前の個体からそれぞれ脳スライス標本を作成し、S1からの情報送出を担う投射細胞を含むS1神経細胞に入力するシナプスの特性を網羅的に測定・比較して、学習により変化する重要入力経路を洗い出すことを目的として、実験系の構築を行って、データ収集段階に入った。 また、上記過程において、課題学習後のマウスに特徴的な洞毛運動が生じることを予期せず発見したため、課題学習前後の洞毛運動を詳しく解析したところ、報酬予期と報酬獲得に伴い洞毛が前方向に動く(protractionする)こと、報酬獲得後に洞毛が前後運動(whisking)することを明らかにした。さらに、洞毛感覚とは無関係の課題である聴覚Go/No-Go課題の学習前後にも同様のどう毛運動が観察されたことや、中脳ドーパミン神経の特異的刺激により洞毛のprotractionやwhiskingが誘発されたことから、洞毛運動が報酬に関連したマウスの表情の一部であることが明らかとなった。
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