研究領域 | スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御 |
研究課題/領域番号 |
17H05749
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
宋 文杰 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (90216573)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 聴覚皮質 / 局所回路 / 神経可塑性 |
研究実績の概要 |
発達期に特定の周波数の音を継続的にマウスに聴かせると、大脳皮質聴覚野にその周波数の音に反応する領域が周波数軸方向に拡大するが、この可塑的変化に聴覚皮質がどのように関与するかは不明である。本研究では、周波数軸方向において、興奮性細胞は興奮性細胞との結合を強める一方、抑制性細胞との結合を弱める仮説を立てて検証し、発達期聴覚可塑性における聴覚皮質の寄与を探索することを目的とした。 その実現のために、まず特定の周波数に応答する皮質細胞を標識する必要がある。そのために、東京大学尾藤晴彦博士より供与を受けたESARE-d2Venus-EPGK-FP635を、プラスミドまたはウイルスベクターで皮質細胞に導入することを試みた。ウイルスベクターを脳室に注入し、皮質の広い領域への導入が期待できるため、まずAAV2ベクターを試みたが、脳実質への導入を示すFP635の発現が見られなかった。ベクターをAAVdjおよびAAVdj8に変更した結果、皮質の広い領域の細胞にFP635の発現が見られたが、不明な理由で刺激に応じて発現するはずのd2Venusの発現は見られなかった。そこで、エレクトロポレーション法を用いてプラスミドを胎生期に導入した。その結果、第2/3層の細胞または第4層の細胞にFP635を導入でき、刺激に応じてd2Venusの発現も見られた。今後、脳スライス標本を用いて、可塑性誘導前後の皮質局所回路の変化を明らかにしていく。そのために必要なマルチパッチ法の準備は完成しており、野生型動物の大脳皮質局所回路に関する論文(Luo et al., 2017)を発表した。その他、関連する論文を2編発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ESARE-d2Venus-EPGK-FP635を含むウイルスベクターを脳室に注入し、聴覚皮質を含む広い皮質に導入する計画だったが、複数種類のウイルスベクターを試みても、期待通りの結果が得られなかった。一方、エレクトロポレーション法を用いてESARE-d2Venus-EPGK-FP635プラスミドを第2/3層、または第4層の皮質細胞に導入することに成功しており、活動依存的なd2Venus発現も見られた。しかし、聴覚皮質を含む広い皮質領域に導入できる成功例が少なく、実験の効率が低いため、研究がやや遅れている。局所回路を調べるためのマルチパッチ法は順調に進み、論文発表に至っている。
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今後の研究の推進方策 |
エレクトロポレーション法やウイルスベクターを用いる方法の低効率の問題を解決するために、トランスジェニックマウスを用いることを計画している。岐阜大学の山口教授がArc-dVenusマウスを作成されており、神経活動依存的にdVenusを発現させることが出来、本研究の目的に合致するため、それを利用する。すでにMTAの締結を進めているところである。
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