キンカチョウは成鳥の歌を聴いて覚え、模倣することで歌を学習する。この時、幼鳥は生得的に存在するキンカチョウの種に共通する歌の特徴を保ちながら、個体に特有の歌を発達させる。研究代表者の研究室ではこれまでの研究から、キンカチョウの第一次聴覚野には生得的に決まるキンカチョウの歌のテンポと、学習によって獲得する歌の音響構造をそれぞれコードする二つの異なる神経細胞群が存在することを明らかにしており、本研究ではこの生得的な神経回路と経験依存的に獲得する神経回路が競合と融合を行いスクラップ&ビルドを繰り返すことでどの様に歌学習を制御するのか、その神経メカニズムを明らかにすることを目的とした。 本研究では、第一次聴覚野の神経細胞群に蛍光タンパク質を発現させ、透明化を用いてその細胞形態の網羅的解析を行った。蛍光タンパクの発現にはウィルスベクターを用い、また興奮性細胞に特異的に発現するプロモーターを用いて発現を行うことで、本研究では特に興奮性細胞の形態を解析し、その細胞体の大きさ、形、投射パターンといった特徴から第一次聴覚野の興奮性細胞を6種類に分類することが出来た。さらにこれらの細胞群の同定を行うため、第一次聴覚野の神経細胞から細胞内記録の方法を用いて、電気生理学的に記録を行い、細胞の聴覚応答の同定を行った後に、透明化を用いてその形態、投射先を明らかにし、これを先に分類した6種類のパターンに当てはめることで、第一次聴覚野の歌のテンポ、音響学的特徴をそれぞれコードする神経細胞群の形態学的同定を行った。 本研究期間中に完全に同定を行うことはできなかったが、第一次聴覚野細胞の形態的分類を行い、さらにこれまで機能的に同定していた細胞群をこの中から同定するおおよその検討が出来た。今後、この研究を続けることで、キンカチョウの歌学習を司る、第一次聴覚野の神経回路を機能的、形態学的に解明することが可能となった。
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