研究領域 | 脳構築における発生時計と場の連携 |
研究課題/領域番号 |
17H05764
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝幸 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (40451629)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヘテロクロニー / 多様性 / 形態形成 / 骨格パターン / 進化 / 遺伝子発現制御 / 脊椎動物 |
研究実績の概要 |
私たちの体は前後軸に沿って正しい位置に器官が配置されることで機能的な体として成り立っている。私たちの手足の原器である肢芽は、種に固有な特定の体節レベルの側板中胚葉に形成される。このため、肢芽の発生する場所は体節の発生と何らかの関係がある可能性が強く示唆されてきた。しかしながら体節は、肢芽が由来する側板中胚葉とは異なる中軸中胚葉に由来し、発生の初期にはこれらの組織間に相互作用はなく、独立に発生することが分かっているた。このことから、これまで体節の形成と肢芽の位置決定は別々に研究されており、接点が無かった。 我々は平成29年度にTGF-βスーパーファミリーの分泌因子であるGDF11が、隣接する側板中胚葉に直接作用し、下流で後肢形成に必須な遺伝子の発現を誘導しながら種に固有の体節レベルに後肢を誘導することを発見し報告した(Matsubara et al., Nature Eco&Evo, 2017)。さらに頭から後肢の位置までの脊椎骨の数の異なる9種(ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル、スッポン、ヤモリ、ニワトリ、マウス、エミュー、ウズラ、シマヘビ)の初期胚を自分たちで単離し、Gdf11が発現を開始するタイミングを調べた結果、種に固有の後肢の位置は中軸中胚葉に発現するGdf11の発現開始タイミングの違いに起因することが明らかとなった。この中で、上述した9種の動物胚において詳細に発現開始タイミングを調べた結果、それぞれの種において1体節刻みで厳密にGdf11の発現開始タイミングがコントロールされていることが判明した。これらの結果は、それぞれの動物においていくつ体節が作られたのか、という分節のサイクル数がGdf11の発現を介して後肢が発生するタイミングをコントロールしている可能性を強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度には予定通り、新学術領域の研究の背景で書かせて頂いた本研究の基盤となる脊椎動物の後肢の位置の違いはGdf11遺伝子の発現開始タイミングの違いに起因する、という論文をとりまとめNature Ecology and Evolutionに発表した。さらに、このデータを元に実験計画に書かせて頂いた体節と体軸の伸長のどちらかだけを阻害したときのGdf11の発現変化を調べ、体節形成のみを阻害した結果Gdf11の発現が減少したことから分節数そのものがGdf11の発現に影響を与えていると言うことが分かった。さらに分泌因子としてWNTタンパク質がGdf11の発現を正に調節していること、FGFシグナルが負に調節していることが分かった。これらの結果からGdf11の発現するタイミングをコントロールしているシステムとして分節数とWNTシグナルの両方の関与が考えられた。そこで次にGdf11の発現が周囲の細胞の影響を受けるか、もしくはintrinsicに発現するタイミングが決められているのかを調べるために、Gdf11が発現していない時期の胚の組織を発現している胚に移植し、Gdf11の発現を調べた。その結果、Gdf11の発現は誘導されなかった。この結果から、WNTなどの分泌因子によって発現が誘導されると言うよりは、分節サイクルがGdf11の発現をコントロールしている可能性が高いことが判明した。1年間で予定通りの実験をすべて終了した。さらにこれに加えてGdf11が発現する前体節中胚葉における発現調節機構を明らかにするために、領域長の影山先生の研究室で開発されたES細胞から前体節中胚葉への分化誘導を行う実験系を習った。平成30年度は、共同研究として新たに始めたES細胞の実験も精力的に進めて行きたい。
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今後の研究の推進方策 |
予定通りの計画に従って、次にGdf11が発現する前体節中胚葉の細胞においてどのようにGdf11の発現が制御されているのかを調べる。まず、ニワトリ胚においてGdf11が発現を開始する前の9体節期と発現直後の10体節期の胚を収集し、ATAC-seqにより1分節の違いによってオープンクロマチンが変化する領域を同定する。特に10体節期付近では多くのHox遺伝子群の発現も誘導される。Gdf11の発現を調節しているトランス因子としてHox遺伝子の関与が考えられるため、特にGdf11遺伝子周辺とHoxA-D遺伝子群に絞って1分節の違いによってオープンクロマチン領域が変化するゲノム領域を探索する。これらの領域はGdf11遺伝子のエンハンサー候補領域とする。次に同定した領域の中でHES binding siteがあるかどうかをバイオインフォマティクスを用いて調べる。もしHES binding siteが多く検出されれば、8体節期と11体節期の胚についても同様にATAC-seqを行い、該当する領域の中で1体節刻みで順次クロマチンが少しずつオープンになっている領域を探索する。このように体節数とともにシークエンシャルにクロマチンがオープンになる領域は分節に依存して遺伝子発現が変化する最有力のエンハンサー候補領域となる。 次にエンハンサーの候補領域をtk-EGFPベクターに導入し、電気穿孔法を用いて前体節中胚葉に遺伝子導入を行った後にエンハンサー活性があるかどうかをEGFPの蛍光強度を元に観察する。エンハンサー活性が得られた領域のスッポン、シマヘビに相当する領域も同様に検討を行い、種によってエンハンサーの配列が異なる、あるいは同じことでGdf11の発現タイミングが種間で異なるためにはどのようなコントロールを受けているのかを考察する。最終的にはこの仕組みを分子レベルで明らかにする。
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