研究実績の概要 |
平成30年度では平成29年度で得られた知見から、Gdf11の発現が、体軸の伸長などに関係なく、分節という現象によって制御されているのかを次の3点の実験から検証した。Gdf11の発現が、分節数により自立的に決まっているならば、異なるステージの胚にGdf11が発現する予定中軸中胚葉領域を移植しても10体節期相当のタイミングで自立的に発現が起こるはずである。そこで8体節期のドナーの中軸中胚葉を4体節期のホストの中軸中胚葉に移植し、Gdf11の発現がどのタイミングで開始されるのか検討した。その結果、Gdf11の発現は、体軸の後方に発現するWNT, FGFシグナルによって発現が調節されること、また分節に関わるシグナルによらず発現が誘導される事が明らかとなった。このことから、初期胚の中軸領域において、発生のタイミングを認識している機構があることが強く示唆された。 発生中の組織の中はさまざまな分泌因子が相互作用をしながら遺伝子発現が調節されている。そのためGdf11の発現を介した種に固有の仙椎-後肢ユニットの位置が決定されるのかを調べるためには純粋なPSMを用いて解析する必要がある。そこで平成30年度では予定通りES細胞からPSMの細胞に分化させた細胞に、GDF11タンパク質を作用させた時に、下流で体軸の領域決定に関与するHox遺伝子の発現がどのように変化するのかを調べた。その結果、GDF11タンパク質を作用させると、染色体の5'側に位置するHox9-Hox13の発現が誘導される事が明らかとなった。これらのHox遺伝子の発現は、体の下半身全体の形態形成に必須である。これらの結果から、種固有なタイミングで発現を開始したGdf11はPSMの細胞において5'Hox遺伝子群の時空間的な発現を介して仙椎-後肢ユニットを含む下半身全体の形成タイミングを制御していることが示唆された。
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